裁判官がした争訟の裁判につき国家賠償法一条一項の規定にいう違法な行為があつたものとして国の損害賠償責任が肯定されるためには、右裁判に上訴等の訴訟法上の救済方法によつて是正されるべき瑕疵が存在するだけでは足りず、当該裁判官が違法又は不当な目的をもつて裁判をしたなど、裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認めうるような特別の事情があることを必要とする。
争訟の裁判と国家賠償責任
国家賠償法1条1項
判旨
裁判官が行った裁判に瑕疵がある場合でも、当然に国家賠償法1条1項の違法となるわけではなく、裁判官が違法・不当な目的を持つなど、付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したと認められる特別の事情が必要である。
問題の所在(論点)
裁判官による裁判事務の執行が、国家賠償法1条1項の適用において「違法」と評価されるための要件。特に、裁判の誤り(法令解釈・適用の誤り)があるだけで直ちに国家賠償責任が生じるか。
規範
国家賠償法1条1項にいう「違法」な行為があったとして国の損害賠償責任が肯定されるためには、当該裁判官が違法又は不当な目的をもって裁判をしたなど、裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認めうるような「特別の事情」があることを要する。
重要事実
上告人は、前訴判決において法令の解釈および適用に誤りがあったと主張し、当該裁判の瑕疵が国家賠償法1条1項にいう違法な行為に該当するとして、国に対して損害賠償を求めた事案である。
あてはめ
仮に前訴判決に法令の解釈・適用の誤り(瑕疵)が存在し、上訴等の訴訟法上の救済方法によって是正されるべき状態であったとしても、そのこと自体が直ちに「権限の趣旨に明らかに背いた行使」を意味するものではない。本件において、裁判官が違法・不当な目的を有していた等の「特別の事情」を基礎付ける事実は認められない。
結論
本件裁判に法令適用の誤りがあるとしても、直ちに国家賠償法上の違法とは認められず、国の賠償責任は否定される。
実務上の射程
司法権の独立と裁判の確定判決による紛争解決機能を維持する観点から、裁判の違法性を厳格に限定した判例である。公権力の行使全般に適用される「職務上の義務違反」という一般的な枠組みに対し、裁判事務については「特別の事情」という高いハードルを課している点に注意が必要である。答案では、裁判官の過失や判断の誤りを論じる際に、この限定された規範を明示し、具体的な悪意や著しい権限逸脱の有無を検討する。
事件番号: 昭和39(オ)1390 / 裁判年月日: 昭和43年3月15日 / 結論: 棄却
裁判官の行なう裁判についても、国家賠償法の適用は当然には排除されない。
事件番号: 昭和62(オ)667 / 裁判年月日: 平成2年7月20日 / 結論: 棄却
一 再審により無罪判決が確定した場合であっても、裁判官がした裁判につき国家賠償法一条一項の規定にいう違法な行為があったものとして国の損害賠償責任が認められるためには、当該裁判官が、違法又は不当な目的をもって裁判をしたなど、裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別の事情がある…