一 再審により無罪判決が確定した場合であっても、裁判官がした裁判につき国家賠償法一条一項の規定にいう違法な行為があったものとして国の損害賠償責任が認められるためには、当該裁判官が、違法又は不当な目的をもって裁判をしたなど、裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別の事情がある場合であることを要する。 二 再審により無罪判決が確定した場合であっても、公訴の提起及び追行時における各種の証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑があったときは、検察官の公訴の堤起及び追行は、国家賠償法一条一項の規定にいう違法な行為に当たらない。
一 再審による無罪判決の確定と裁判の違法性 二 再審による無罪判決の確定と公訴の提起及び追行の違法性
国家賠償法1条1項
判旨
裁判官による裁判及び検察官による公訴の提起・追行の国家賠償法1条1項上の違法性は、再審で無罪が確定した場合であっても、各々の職務の特性に応じた格別の要件(権限の趣旨に明らかに背く行使や、合理的な判断過程の欠如等)に基づき判断される。
問題の所在(論点)
刑事事件において再審無罪が確定した場合、(1)有罪判決を下した裁判官の判断および(2)公訴を提起・追行した検察官の行為について、国家賠償法1条1項上の違法性をいかに判断すべきか。
規範
1. 裁判官の裁判については、上訴等の救済方法で是正されるべき瑕疵があるだけでは足りず、裁判官が違法・不当な目的をもつなど権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したと認め得る特別の事情がある場合に限り違法となる。2. 検察官の公訴提起・追行については、提起・追行時の証拠資料に基づき、合理的な判断過程により有罪の嫌疑が認められる限り違法とはならない。これらは再審無罪確定後も同様に適用される。
重要事実
上告人Aは、殺人事件の公訴事実について第二審で有罪判決を受け、上告審でも維持されて有罪が確定した。しかし、その後の再審請求により有罪判決が取り消され、再審で無罪判決が確定した。これを受け、Aらは国に対し、裁判官の誤判および検察官の公訴提起・追行が国家賠償法1条1項にいう違法な行為にあたるとして損害賠償を求めた。
あてはめ
1. 裁判官の行為について、原審が確定した事実関係によれば、第二審および上告審において裁判官が違法・不当な目的をもつなど権限の趣旨に明らかに背いた事実は認められない。2. 検察官の行為についても、提起・追行時の証拠資料に照らせば、合理的な判断過程により有罪の嫌疑があると判断したことに不合理な点はなく、違法な行為があったとは認められない。再審無罪という結果のみをもって直ちに遡及的に違法性が肯定されるものではない。
結論
裁判官の裁判および検察官の公訴提起・追行に国家賠償法上の違法は認められず、国の損害賠償責任を否定した原審の判断は正当である。
実務上の射程
公権力の行使のうち、司法・準司法的な職務については「結果的な誤り」ではなく「職務上の義務違反(職務行為の客観的相当性の欠如)」が厳格に要求される。答案では、裁判官の責任には『特別の事情』、検察官の責任には『合理的判断過程の欠如』というキーワードを使い分けて記述する。
事件番号: 昭和53(オ)69 / 裁判年月日: 昭和57年3月12日 / 結論: 棄却
裁判官がした争訟の裁判につき国家賠償法一条一項の規定にいう違法な行為があつたものとして国の損害賠償責任が肯定されるためには、右裁判に上訴等の訴訟法上の救済方法によつて是正されるべき瑕疵が存在するだけでは足りず、当該裁判官が違法又は不当な目的をもつて裁判をしたなど、裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行…