無罪判決が確定した場合における公訴提起の違法性の有無の判断は、検察官が公訴提起時に現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料をもつてすべきであり、公訴提起後その追行時に公判廷に初めて現れた証拠資料であつて通常の捜査を遂行しても公訴の提起前に収集することができなかつたと認められる証拠資料をもつてすることは許されない。
無罪判決が確定した場合における公訴提起の違法性の有無の判断資料
国家賠償法1条1項
判旨
検察官による公訴の提起・追行は、起訴時または追行時における証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により有罪の嫌疑が認められる限り、後に無罪判決が確定したとしても国家賠償法1条1項にいう違法な公務執行にはあたらない。
問題の所在(論点)
刑事事件で無罪判決が確定した場合において、検察官による公訴の提起および追行が国家賠償法1条1項にいう違法な公務執行とされるための要件、およびその判断基準が問題となる。
規範
公訴の提起・追行が国家賠償法1条1項の適用上違法となるかは、裁判官の心証とは異なり、検察官の職務の性質に鑑みて判断される。具体的には、公訴提起時において検察官が現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を総合勘案し、合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑があれば、当該公訴提起は違法性を欠く。また、公訴提起が適法であれば、公訴追行についても、追行時の証拠資料に基づき有罪の嫌疑があると信じるに足りる合理的な理由がある限り、原則として違法とはならない。
重要事実
被上告人は殺人罪で起訴されたが、控訴審で無罪が確定した。検察官は起訴にあたり、被告人が倒れた巡査部長を暴行しているように見える写真や、目撃者の供述等を証拠としていた。一方、暴行場面を否定する内容の16ミリフィルム(Kフィルム)やその撮影者の存在も把握していたが、撮影者が捜査に非協力であったため、その取り調べを行わないまま起訴に踏み切った。原審は、Kフィルム等の検討が不十分であり有罪の合理的期待がなかったとして国賠法上の違法性を認めたため、国が上告した。
あてはめ
検察官は起訴前、目撃者Iを現場に立ち会わせて視認可能性を確認し、写真撮影者Hからも直接聴取を行うなど、現に収集した証拠の信用性を具体的に吟味していた。捜査に非協力的な撮影者Kらの取り調べが困難であったという当時の状況に照らせば、通常要求される捜査を怠ったとはいえず、公訴提起時の証拠資料に基づく有罪の嫌疑には合理性があったといえる。また、公判過程でも重要証拠の証拠価値が補強されていたことから、公訴追行における嫌疑の判断も合理的であった。したがって、事後的に判明した事情や裁判所の判断を基準に、公訴提起・追行を違法と断じることはできない。
結論
公訴の提起・追行について、検察官が合理的な判断過程により有罪の嫌疑を抱いていたと認められる本件においては、国家賠償法上の違法性は認められない。
実務上の射程
公務員の不法行為責任における「違法性」を、職務上の注意義務違反(過失)と密接に関連させて判断する枠組みを示したものである。答案上は、検察官の裁量を尊重しつつも、当時の証拠状況からみた「判断過程の合理性」の有無を検討する際に活用する。
事件番号: 昭和62(オ)667 / 裁判年月日: 平成2年7月20日 / 結論: 棄却
一 再審により無罪判決が確定した場合であっても、裁判官がした裁判につき国家賠償法一条一項の規定にいう違法な行為があったものとして国の損害賠償責任が認められるためには、当該裁判官が、違法又は不当な目的をもって裁判をしたなど、裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別の事情がある…
事件番号: 昭和59(オ)890 / 裁判年月日: 昭和63年6月16日 / 結論: 棄却
起訴休職中の国家公務員に対し起訴事実につき無罪判決が言い渡され控訴された場合に、右起訴事実が職場内において管理職に対し暴行を加えて傷害を負わせたという公務執行妨害等であり、右判決が起訴事実のうち犯意について証拠が不十分であるとしているものの外形的事実を認めているなど判示のような事情の下においては、起訴休職処分を撤回しな…