一 無罪の刑事判決が確定したというだけで直ちに当該刑事事件についてされた逮捕、勾留及び公訴の提起・追行が違法となるものではない。 二 公権力の行使に当たる国の公務員がその職務を行うにつき故意又は過失によつて違法に他人に損害を与えた場合には、国がその被害者に対して賠償の責に任じ、公務員個人はその責を負わない。
一 無罪判決の確定と捜査及び訴追の違法性 二 国家賠償法一条と公務員個人の賠償責任
国家賠償法1条,民法709条
判旨
刑事事件で無罪判決が確定しても直ちに起訴等が違法となるわけではなく、起訴時等の証拠に基づき合理的な判断過程で有罪の嫌疑があれば国家賠償法上の違法性は否定される。
問題の所在(論点)
1.無罪判決の確定により、遡及的に起訴前の逮捕・勾留や公訴の提起・追行が国家賠償法上違法となるか。 2.検察官による証拠提出の不作為や別件取調べ、特定の供述の採用は合理的な判断範囲内といえるか。 3.公務員個人は国家賠償法上の賠償責任を負うか。
規範
検察官による公訴の提起・追行が国家賠償法1条1項の適用上違法となるためには、起訴時または公訴追行時における各種の証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑があれば足り、判決時における裁判官の心証と異なる基準で判断されるべきである。また、公権力の行使に当たる公務員が職務上故意・過失により損害を与えた場合、国が賠償責任を負うのであって、公務員個人は賠償責任を負わない。
重要事実
上告人らは、いわゆる「白鳥事件」に関連する鉄道爆破事件等の容疑で逮捕・起訴されたが、後に無罪判決が確定した。上告人らは、無罪確定によって捜査・訴追が当然に違法となると主張し、また、検察官が遺留品(発破器)の隠匿や虚偽の論告を行ったこと、別件逮捕・勾留を繰り返したことなどを挙げて、国および検察官個人に対して損害賠償を求めた。
あてはめ
1.逮捕・勾留はその時点での嫌疑の相当性と必要性があれば適法であり、起訴時等の検察官の心証は裁判官の心証と性質上異なるため、当時の証拠資料に基づく合理的判断による嫌疑があれば違法ではない。 2.本件では、遺留品の発破器と事件との関連性を肯定する複数の証拠が存在しており、他の発破器(証129号)が直接関係ないと判断して提出しなかったことや、共犯者のアリバイ捜査の結果に基づき供述の信用性を維持した判断には合理性がある。また、逮捕状記載の事実と密接に関連する事実の取調べや、併合罪関係にある別個の事実による順次の逮捕・勾留も、司法審査を経ており直ちに違法とはいえない。 3.公務員個人が職務執行につき直接賠償責任を負わないことは、判例上確立した解釈である。
結論
1.無罪確定のみで起訴等が直ちに違法となることはない。本件捜査・訴追に合理的な判断を逸脱した違法は認められない。 2.検察官個人は、その職務行為に関して直接の賠償責任を負わない。上告棄却。
実務上の射程
刑事補償と国家賠償の性質の違いを明確にする事案。司法試験においては、国賠法1条の「違法」の意義(職務義務違反説)を論じる際、特に検察官の起訴判断の裁量と合理性の基準として引用すべき重要判例である。
事件番号: 昭和62(オ)667 / 裁判年月日: 平成2年7月20日 / 結論: 棄却
一 再審により無罪判決が確定した場合であっても、裁判官がした裁判につき国家賠償法一条一項の規定にいう違法な行為があったものとして国の損害賠償責任が認められるためには、当該裁判官が、違法又は不当な目的をもって裁判をしたなど、裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別の事情がある…