犯罪の被害者ないし告訴人は、捜査機関の捜査が適正を欠くこと又は検察官の不起訴処分の違法を理由として、国家賠償法の規定に基づく損害賠償請求をすることができない。
犯罪の被害者ないし告訴人からの捜査の不適正又は不起訴処分の違法を理由とする国家賠償請求の可否
国家賠償法1条1項
判旨
犯罪被害者等が捜査や公訴提起によって受ける利益は、公益上の見地から行われる捜査・公訴の帰結として反射的にもたらされる事実にすぎず、法律上保護された利益ではない。
問題の所在(論点)
捜査機関による捜査の不備や、検察官による不起訴処分の違法を理由として、被害者等が国家賠償法上の損害賠償請求を行うことができるか。被害者が適正な捜査や公訴提起を受ける利益が「法律上保護された利益」といえるかが問題となる。
規範
国家賠償法上の損害賠償請求が認められるためには、侵害された利益が「法律上保護された利益」であることを要する。捜査及び公訴権の行使は、国家・社会の秩序維持という公益を図るために行われるものであり、被害者の損害回復を目的とするものではない。したがって、これらによって被害者が受ける利益は「反射的利益」にすぎず、権利性を有しない。
重要事実
上告人(被害者ないし告訴人)は、捜査機関による捜査が適正を欠いたこと、および検察官による不起訴処分が違法であることを理由として、国に対し国家賠償法に基づく損害賠償を請求した。
あてはめ
捜査や公訴権の行使は、公益維持を目的とする国家作用である。告訴も、捜査の端緒を与え検察官の職権発動を促すものにすぎない。被害者が捜査や公訴提起によって受ける利益は、公益実現の過程で付随的に発生する事実にすぎない。本件における捜査の不備や不起訴処分の違法は、上告人の法律上保護された利益を侵害するものとは認められない。
結論
被害者ないし告訴人は、捜査の不適正や不起訴処分の違法を理由として、国家賠償法に基づく損害賠償請求をすることはできない。
実務上の射程
刑事手続における被害者の地位を限定的に捉えた判例である。被害者が「適正な捜査を受ける権利」を主張して国賠請求を行う場合、本判決が厚い壁となる。ただし、捜査過程での人権侵害(暴行・侮辱等)が別途認められる場合などは、本件の射程外として別途損害賠償が認められる余地がある点に注意が必要である。
事件番号: 昭和52(オ)857 / 裁判年月日: 昭和54年7月10日 / 結論: 棄却
都道府県警察の警察官がいわゆる交通犯罪の捜査を行うにつき違法に他人に加えた損害については、国は、原則として、国家賠償法一条一項による賠償責任を負わない。