不動産の強制競売事件における執行裁判所の処分が関係人間の実体的権利関係に適合しない場合において、右処分により自己の権利を害される者が、強制執行法上の手続による救済を求めることを怠り、このために損害を被つたときは、執行裁判所みずからその処分を是正すべき場合等特別の事情がある場合でない限り、その賠償を国に対して請求することはできない。
不動産の強制競売事件における執行裁判所の処分が実体的権利関係に適合しないことにより自己の権利を害される者が強制執行法上の手続による救済を求めることを怠つた場合と国に対する損害賠償請求の可否
国家賠償法1条1項,民訴法(昭和54年法律第4号による改正前のもの)549条1項,民事執行法38条1項
判旨
不動産競売において実体上の権利関係との不適合が生じても、執行法上の救済手続を怠った者は、執行裁判所自ら是正すべき等の特段の事情がない限り、国に対し国家賠償請求をすることはできない。
問題の所在(論点)
執行裁判所の処分により実体上の権利を侵害された者が、強制執行法上の救済手続を執ることなく、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を請求できるか。
規範
強制競売は外形的な権利関係に基づき行われるため、実体との不適合は執行法上の救済手続により是正されることが予定されている。したがって、執行裁判所が自ら処分を是正すべき等の特別の事情がない限り、権利者が法に定める救済手続を怠ったことで損害が発生しても、国家賠償法上の違法性は否定され、賠償請求は認められない。
重要事実
上告人は、対象土地の競売手続の進行中に当該土地の所有権を取得し、処分禁止の仮処分登記を経由した。しかし、上告人は第三者異議の訴えの提起や執行停止決定の提出といった強制執行法上の救済手続を一切執らなかった。その結果、土地全部が競売・配当され、上告人は所有権を失い、配当も受けられなかったため、国の賠償責任を追及した。
あてはめ
本件において上告人が得た処分禁止の仮処分決定は暫定的な処分にすぎず、これをもって執行裁判所が自ら処分を是正すべき「特別の事情」があるとはいえない。上告人は、第三者異議の訴え等の適切な救済手続を執るべきであったにもかかわらず、これを怠った。したがって、所有権喪失等の損害は自らの懈怠によるものであり、国に賠償を求めることはできない。
結論
上告人は、強制執行法上の救済手続を怠ったため、国家賠償法に基づく損害賠償を請求することはできない。
実務上の射程
執行官や執行裁判所の過失を争う事案において、先行する執行法上の不服申立て等の有無を重視する法理。実体法上の権利があったとしても、手続的救済を尽くさない限り「違法」や「損害との因果関係」が否定される方向に働くため、被告(国)側の防御として有用である。
事件番号: 昭和61(オ)532 / 裁判年月日: 昭和63年12月1日 / 結論: 棄却
先に登記を経由した抵当権者に対抗することができないために競売手続において抹消された所有権に関する仮登記の権利者は、仮登記の後に登記を経由した抵当権者に対して、不当利得を理由として、その者が交付を受けた代価の返還を請求することはできない。