弁護士法二三条の二に基づき前科及び犯罪経歴の照会を受けたいわゆる政令指定都市の区長が、照会文書中に照会を必要とする事由としては「中央労働委員会、京都地方裁判所に提出するため」との記載があつたにすぎないのに、漫然と右照会に応じて前科及び犯罪経歴のすべてを報告することは、前科及び犯罪経歴については、従来通達により一般の身元照会には応じない取扱いであり、弁護士法二三条の二に基づく照会にも回答できないとの趣旨の自治省行政課長回答があつたなど、原判示の事実関係のもとにおいては、過失による違法な公権力の行使にあたる。 (補足意見、反対意見がある。)
いわゆる政令指定都市の区長が弁護士法二三条の二に基づく照会に応じて前科及び犯罪経歴を報告したことが過失による公権力の違法な行使にあたるとされた事例
国家賠償法1条1項,弁護士法23条の2
判旨
前科等はみだりに公開されない法律上の保護に値する利益であり、市区町村長が弁護士法23条の2に基づく照会に対し、必要性を十分に審査せず漫然とこれに回答することは、公権力の違法な行使にあたる。
問題の所在(論点)
市区町村長が弁護士法23条の2に基づく照会に応じて前科等を報告する行為が、国家賠償法1条1項にいう「違法な公権力の行使」にあたるか。また、区長の報告行為と、その後の第三者による前科の公表(プライバシー侵害)との間に相当因果関係が認められるか。
規範
前科等は人の名誉・信用に直結し、みだりに公開されない法律上の保護に値する利益(プライバシー権)を有する。市区町村長が照会に応じ得るのは、前科等の有無が訴訟等の重要な争点であり、かつ他に立証方法がない場合に限られる。特に弁護士法23条の2に基づく照会に対しては、その取扱いには格別の慎重さが要求され、照会を必要とする事由の充足性を審査せず、犯罪の種類や軽重を問わず全てを報告することは違法となる。
重要事実
京都弁護士会が、所属弁護士の申出により京都市伏見区役所に前科等の照会を行い、中京区長がこれを受理した。照会申出書には、必要とする事由として「中央労働委員会、京都地方裁判所に提出するため」と簡略に記載されているにすぎなかった。中京区長は、これに対し被上告人の前科・犯罪経歴のすべてを報告した。その後、当該報告を受けた弁護士の依頼者(教習所幹部ら)が、裁判所の構内等で第三者に対し被上告人の前科を摘示し公表した。
あてはめ
まず、前科等は秘匿性の高い情報であり、照会事由が「裁判所への提出」という抽象的記載にとどまる場合、その必要性が格別に高いとはいえない。それにもかかわらず中京区長が漫然と全履歴を回答したことは、過失による公権力の違法な行使にあたると解される(違法性・過失)。次に、市区町村長による回答によって、依頼者らがその情報を取得し、実際に公衆の前で摘示した以上、報告行為とプライバシー侵害の結果との間には相当因果関係も認められる。
結論
中京区長による前科等の報告は、国家賠償法上の違法な公権力の行使に該当し、京都市は損害賠償責任を負う。
実務上の射程
プライバシー権を「私生活をみだりに公開されない法的利益」として認めた重要判例である。答案上では、行政機関による情報提供の適法性(国賠法)の文脈だけでなく、憲法13条が保障するプライバシー権の内容を論じる際のリーディングケースとして活用すべきである。
事件番号: 昭和33(オ)350 / 裁判年月日: 昭和36年10月13日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】警察官が職務命令に基づく規程に従い、保安上の目的で精神障害者名簿に特定人を登載し視察を行うことは、強制を伴わず公共の秩序維持等の範囲内にある限り、直ちに違法とはいえない。 第1 事案の概要:警察署の担当係官が、上告人の性格や行動に著しく常人と異なる傾向があることを看取し、職務命令である「非監置精神…