刑訴第二六二条による付審判請求事件について被疑者にあてた該請求棄却決定の送達報告書に請求人の氏名が被疑者として表示され、右送達報告書が一件記録に編綴されていても、係官に請求人を侮辱する等その権利、利益を害する意思があったものと認められず、右表示が誤記であることは記録上一見して明白であり、かつ、右送達報告書が多数人の目にふれる性質のものとはいえない以上、右表示の誤りは客観的にみて請求人の権利、利益を侵害するものと認めるに値しないから、請求人が右表示の誤りによって精神的苦痛を蒙つたとしても、右精神的損害に対する賠償を請求することは許されない。
名誉毀損による損害賠償請求が排斥された事例
国家賠償法1条
判旨
公務員による書類の誤記があっても、一見して明白な過誤であり、かつ当該書類が性質上多人数に閲覧されるものでない場合には、客観的に見て権利利益の侵害を認め難く、国家賠償法上の違法性は認められない。
問題の所在(論点)
公務員が公文書の作成・管理において、個人の肩書を誤記した行為が、国家賠償法1条1項にいう違法な権利侵害に該当するか。
規範
国家賠償法1条1項にいう「違法」な行為とは、公務員が職務上の義務に違反して、客観的に被害者の権利または法的保護に値する利益を侵害したことを指す。特に書類上の誤記による名誉・感情の侵害が問題となる場合、その表示の内容、侵害の意思の有無、過誤の明白性、および当該書類の閲覧可能性等の諸要素を総合し、社会通念上、権利利益の侵害を認めるに足りる客観的違法性が認められるべきである。
重要事実
上告人が提起した付審判請求事件において、執行吏代理および裁判所書記官が送達報告書を作成・編綴した際、本来「請求人」とすべき上告人の肩書を、事務上の不注意により誤って「被疑者」と記載した。上告人は、この虚偽記載により侮辱を受け精神的苦痛を蒙ったとして、国家賠償法1条1項に基づき慰謝料請求および民法723条に基づく名誉回復処分を求めた。
あてはめ
本件では、第一に、執行吏代理らに上告人を侮辱し権利を害する意思はなく、事務上の過失による単なる誤記にすぎない。第二に、当該「被疑者」との表示は、事件記録全体に照らせば誤記であることが一見して明白である。第三に、送達報告書はその性質上、不特定多数の目に触れるものではなく、外部への公表を予定していない。これらの事実に照らせば、本件誤記は客観的に見て上告人の法的利益を侵害するものとは認められず、違法性を欠くというべきである。
結論
公務員の行為に違法性が認められないため、上告人の損害賠償請求および名誉回復請求はいずれも棄却される。
実務上の射程
事務的なケアレスミスが直ちに国賠法上の「違法」とされるわけではなく、受忍限度の構成に近い枠組みで、表示の明白な誤りや閲覧範囲の限定性から違法性を否定する論理として活用できる。
事件番号: 昭和43(オ)867 / 裁判年月日: 昭和44年2月18日 / 結論: 棄却
一、処分禁止の仮処分の執行された不動産に対する滞納処分による公売落札を原因として所有権移転登記をするに際し、登記官吏が職権によつて右仮処分の記入登記を抹消したことが違法であつたとしても、それが司法省民事局長回答に基づく従来の取扱例に従つてなされたものである以上、右登記官吏に故意または過失があつたとはいえない。 二、右の…
事件番号: 昭和42(オ)53 / 裁判年月日: 昭和42年10月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】印鑑証明事務を取り扱う公務員が、偽造印鑑による印影であることを見抜けず、かつ本人を詐称する者を真実の本人と信じたことに無理がない場合には、国家賠償法1条1項の過失は否定される。 第1 事案の概要:公務員Eは、D名義の印鑑証明書の発行事務において、Dを詐称するFから申請を受けた。その際、Eは提示され…