一筆の土地に容積率の上限に近い建物を建築した上、右土地を分筆し、建物の存在しない方の土地をマンション建築用地として売り渡した者に対する買主の損害賠償請求訴訟において、買主が市から建築確認申請を保留するようにとの行政指導を受け、いったんマンションの建築を断念したが、後日、売主が容積率違反の状態を解消する措置を採ることを命ずる市長の命令に応じないことが明らかになり、買主も右行政指導に従う意思を放棄して建築確認申請をしたため、結局、申請どおりの建築確認がされたなど、判示の事実関係の下において、買主が行政指導を受けたことと建築確認の遅延との間に因果関係がないとした原審の認定には、経験則違反ひいては審理不尽、理由不備の違法がある。
行政指導を受けたことと建築確認の遅延との間に因果関係がないとした認定に経験則違反、審理不尽、理由不備の違法があるとされた事例
民訴法185条,民訴法394条,民訴法395条1項6号,建築基準法52条
判旨
不動産の売主は、売買対象地が既に別の建物の敷地として建築確認を受けている(敷地の二重使用)等の事情を熟知している場合、買主に対し、建築確認手続が遅延する可能性等を説明すべき信義則上の義務を負う。また、不法行為等における遅延損害の因果関係について、行政指導に従い建築確認申請を一時断念したとしても、それが指導に任意に協力した結果である以上、因果関係は否定されない。
問題の所在(論点)
1. 売主が、本件土地が「敷地の二重使用」に当たり、建築確認が遅延する可能性があることを説明しなかったことは、信義則上の説明義務違反(不法行為等)を構成するか。 2. 買主が行政指導に応じて自主的に建築確認申請を一時断念した場合、行政指導(原因事実)と建築遅延(損害)との間に相当因果関係が認められるか。
規範
1. 不動産売買の当事者間において、売主は信義則上、買主の買受目的を阻害し、建築確認手続が遅延するおそれのある公法上の制約等の重要な事実(敷地の二重使用の有無等)について説明すべき義務を負う。 2. 行政指導に従い建築確認申請を一時断念し、その結果建築が遅延した場合であっても、その断念が行政指導に任意に協力した結果であるときは、行政指導と建築遅延との間の因果関係は経験則上肯定される。
重要事実
不動産会社である上告人は、被上告人B2(売主)から、容積率制限一杯のマンション建設用地として本件土地を購入した。B2は、本件土地が分筆前の元の一筆の土地として建築確認を受けており、本件土地上に建物を建てれば「敷地の二重使用」に当たり建築制限を受けることを知っていたが、説明しなかった。上告人が建築確認を相談したところ、行政から申請を控えるよう行政指導を受けたため、上告人は一旦申請を断念し、売買契約を解除して訴訟を提起した。後に行政指導の限界を知り再申請したところ建築確認が得られたが、上告人は確認が遅延したことによる損害賠償(金利相当額等)を請求した。原審は、上告人が自らの判断で申請を断念したとして因果関係を否定した。
あてはめ
1. B2は自ら二重使用の状態を出し、上告人が容積率一杯の建築目的であることを知っていた以上、行政上の措置により建築確認が遅延する可能性を説明すべき信義則上の義務を負う。これを怠ったことは説明義務違反にあたる。 2. 行政指導は本来任意のものであるが、上告人がその趣旨を尊重して協力し申請を控えたのは、行政指導が有効に作用した結果である。したがって、買主が自ら断念したという形式的判断のみで因果関係を否定することは経験則に反する。B2が是正命令に応じず、上告人が指導の限界を悟るまで再申請できなかった事情を考慮すれば、遅延は行政指導に起因するものといえる。
結論
売主B2には信義則上の説明義務違反が認められ、また上告人が行政指導に従ったことによる建築確認の遅延との因果関係も認められる。したがって、原審の因果関係を否定した判断には違法があり、損害賠償責任の有無についてさらに審理を尽くさせるため、本件を差し戻す。
実務上の射程
不動産取引における売主・仲介業者の説明義務の範囲を具体化する際の重要判例である。特に、行政指導という任意の協力に基づく不作為が介在した場合でも、それが指導に誘発されたものである限り因果関係を肯定した点で、実務上、損害論における因果関係の認定を柔軟に行う際の論拠として有用である。
事件番号: 昭和33(オ)265 / 裁判年月日: 昭和36年5月26日 / 結論: 棄却
宅地建物取引業者は、直接の委託関係はなくても、業者の介入に信頼して取引するに至つた第三者に対して、信義誠実を旨とし、権利者の真偽につき格別に注意する等の業務上の一般的注意義務がある。