甲らは,乙(住宅,都市整備公団)との間で,その設営に係る団地内の住宅につき賃貸借契約を締結していたところ,乙による団地の建て替え事業の実施に当たって,上記賃貸借契約を合意解約し,上記住宅を明け渡すなどした上,建て替え後の団地内の分譲住宅につき譲渡契約を締結したこと,上記建て替え事業の実施に当たり甲らと乙が交わした覚書には,乙において甲らに対し分譲住宅をあっせんした後未分譲住宅の一般公募を直ちにすること及び一般公募における譲渡価格と甲らに対する譲渡価格が少なくとも同等であることを意味する条項があり,甲らは,上記譲渡契約締結の時点において,上記条項の意味するとおりの認識を有していたこと,乙は,上記時点において,甲らに対する譲渡価格が高額に過ぎることなどから,上記一般公募を直ちにする意思を有しておらず,かつ,甲らにおいて上記認識を有していたことを少なくとも容易に知り得たにもかかわらず,甲らに対し,上記一般公募を直ちにする意思がないことを説明しなかったこと,これにより甲らは乙の設定に係る分譲住宅の価格の適否について十分に検討した上で上記譲渡契約を締結するか否かの意思決定をする機会を奪われたことなど判示の事情の下においては,乙が甲らに対し上記一般公募を直ちにする意思がないことを説明しなかったことは,慰謝料請求権の発生を肯認し得る違法行為と評価すべきである。
分譲住宅の譲渡契約の譲受人が同契約を締結するか否かの意思決定をするに当たり価格の適否を検討する上で重要な事実につき譲渡人において説明をしなかったことが慰謝料請求権の発生を肯認し得る違法行為と評価すべきものとされた事例
民法709条,民法710条
判旨
不動産譲渡契約の締結に際し、契約の前提となる重大な事実について相手方が誤解していることを知り得たにもかかわらず、説明を怠って意思決定の機会を奪った行為は、信義則に著しく違反する違法行為として、財産的利益に関する意思決定であっても慰謝料請求権を発生させ得る。
問題の所在(論点)
不動産譲渡契約の締結に際し、売主が買主に対し、契約締結の前提となる公募予定等の事実を説明しなかったことが、信義則上の説明義務に違反し、不法行為(慰謝料請求対象)を構成するか。
規範
契約締結の一方当事者が、相手方の意思決定に重大な影響を及ぼす事実を認識し、かつ相手方がその事実について誤った認識を有していることを容易に知り得た場合には、信義則上、当該事実を説明すべき義務を負う。これに違反して説明を怠り、相手方が契約を締結するか否かを十分に検討する機会を奪ったときは、信義則に著しく違反するものとして不法行為を構成し、財産的利益に関する意思決定であっても、慰謝料請求権の発生を肯認し得る違法行為と評価される。
重要事実
住宅公団(当時)の建て替え事業において、元居住者の被上告人らは、明渡しの協力と引き換えに、一般公募に先立ち「公募価格と同等以下の価格」で優先購入できる旨の条項(本件優先購入条項)を含む覚書を締結した。その後、被上告人らは公団の提示価格で譲渡契約を締結したが、公団は当時、当該価格が高騰しすぎており、公募しても買い手がつかないため直ちに一般公募をする意思がないことを認識していた。一方、被上告人らは条項に基づき、直ちに同等価格で公募がなされると信じていたが、公団は何ら説明を行わず、数年後に大幅な値下げをして一般公募を行った。
あてはめ
被上告人らは、優先購入条項により「直ちに同等価格で一般公募されること」を前提に、提示価格の妥当性を判断していた。公団は、自らの提示価格が高額すぎて公募が不可能であり、直ちに公募する意思がないことを認識していたのであるから、被上告人らが誤った認識を有していることは容易に知り得たといえる。それにもかかわらず、公団がこの意思を全く説明しなかったことは、被上告人らが価格の適否を検討して契約締結の可否を決定する機会を奪うものであり、信義則への著しい違反が認められる。この意思決定の妨害は、慰謝料請求を認めるに足りる違法性を有すると評価される。
結論
公団の説明欠如は信義則に著しく違反し、不法行為を構成するため、被上告人らの慰謝料請求は認められる。
実務上の射程
契約締結過程における説明義務違反が、単なる財産的損害(差額相当損害等)にとどまらず、精神的苦痛に対する慰謝料の対象となり得ることを示した事例。特に、公共的性格を持つ当事者が、相手方の合理的な期待を裏切るような重要な不作為を行った場合に、不法行為としての違法性が高度に認められやすい。
事件番号: 平成3(オ)1386 / 裁判年月日: 平成5年4月23日 / 結論: 破棄差戻
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