建物の建具の納入等についての下請業者が施工業者との間で下請契約を締結する前に下請の仕事の準備作業を開始した場合において,(1)竣工予定時期に間に合うよう下請の仕事を完成するためには,施主が施工業者を決定する前に上記準備作業を開始する必要があったこと,(2)施主は,設計監理者の説明を受けて,下請業者に上記準備作業の開始を依頼すること及び依頼後は別の業者を選ぶことができなくなることを了承していたこと,(3)下請業者は,設計監理者から,上記のとおり施主の了承があった旨の説明を受けるとともに,直ちに上記準備作業を開始するよう依頼を受けたことから,上記準備作業を開始したことなど判示の事実関係の下では,下請業者が上記準備作業に要した費用等について設計監理者で負担するとの説明を受けていたなどの特段の事情のない限り,施主が,下請業者において下請契約を確実に締結できるものと信頼して支出した費用を補てんするなどの代償的措置を講ずることなく,将来の収支に不安定な要因があることを理由として施工計画を中止することは,下請業者の上記信頼を不当に損なうものとして,不法行為に当たる。
下請業者が施工業者との間で下請契約を締結する前に下請の仕事の準備作業を開始した場合において施主が下請業者の支出費用を補てんするなどの代償的措置を講ずることなく施工計画を中止することが下請業者の信頼を不当に損なうものとして不法行為に当たるとされた事例
民法1条2項,民法709条
判旨
建築主の了承のもと、下請契約の締結を確実に行えるものと信頼して準備作業を開始した者に対し、建築主が代償的措置を講じることなく建築計画を中止することは、信義則上の法的保護に値する信頼を不当に損なうものとして、不法行為(民法709条)を構成する。
問題の所在(論点)
直接の契約関係にない建具業者(下請予定者)が、建築主の了承を得て準備作業を開始した後に建築計画が中止された場合において、建築主は当該業者に対し、不法行為に基づく損害賠償責任を負うか。
規範
契約締結に向けた特定の期待が生じた段階において、一方の当事者がその信頼に基づき行動した場合には、信義衡平の原則に照らし、その信頼は法的保護を受ける。具体的には、相手方が準備作業による費用の支出を予見し得たといえる状況下で、特段の事情がない限り、当該費用を補填するなどの代償的措置を講じることなく一方的に計画を中止することは、相手方の信頼を不当に損なうものとして不法行為責任を負う。
重要事実
建築主(被上告人)は、大学施設の建築を計画し、設計監理をAに委託した。Aは、特定の建具の納入には工期上、施工業者の決定前に準備作業を開始する必要がある旨を被上告人に説明。被上告人は、業者(上告人)が準備作業を開始すること、及び一旦依頼すれば他業者に変更できなくなることを了承した。上告人はこの了承を受け、製作図作成や製造ライン確保等の準備を開始したが、その後、被上告人は収支の不安を理由に計画を中止し、上告人の損害に対して何ら措置を講じなかった。
あてはめ
上告人は被上告人の直接の了承を得て準備作業を開始しており、誰が施工業者に選定されても確実に下請契約を締結できると信頼したといえる。被上告人は、上告人が準備作業のために費用を費やすことを予見し得た。また、上告人と設計者Aとの間に費用の自己負担を定めた特段の事情は認められない。そうであれば、施工業者選定の義務まではなくとも、代償的措置を講じずに計画を中止することは、信義則上保護されるべき上告人の信頼を不当に侵害する行為といえる。
結論
被上告人は、上告人が信頼に基づいて支出した費用等の損害について、不法行為による賠償責任を負う。原判決を破棄し、差し戻す。
実務上の射程
契約締結に至っていない準備段階、かつ直接の契約相手方ではない下請予定者との関係であっても、建築主の言動により「契約締結の確実性」への信頼が生じ、費用支出の予見可能性がある場合には、信義則上の注意義務が肯定される。
事件番号: 昭和62(オ)870 / 裁判年月日: 平成2年7月5日 / 結論: 棄却
売買契約締結の過程において、その目的物、代金の額及び支払時期、契約締結の時期などを当事者の双方が了解し、買主となる者が、売主となる者に確実に契約が成立するとの期待を抱かせるに至ったにもかかわらず、一方的、無条件に契約の締結を拒否し、これを正当視すべき特段の事情もないなど原判示の事実関係の下においては、買主となる者は、売…