請負人の施行した道路開設工事による落石のため第三者に損害を生じた場合において、右損害が注文者の作成した設計図および仕様書自体のかしによつて生じたものではなく、注文者は請負人に対し、落石等により損害を生ずることのないような措置を講ずべきことを要求し、これに要する費用を加算して請負代金額を決定し、請負人も、その趣旨を諒承して、自己の責任において事故防止の措置を講ずることを約して工事を引き受け、注文者の具体的指示によらず、自主的な判断によつて岩石の切捨てをしたものであり、注文者は、請負契約上、工事施行方法について判示のような指示監督の権限を有し、かつ、常時監督員を工事現場に派遣していたが、その目的はもつぱら工事が契約どおりに行なわれることを確保することにあつたなど判示の事実関係があるときは、注文者が、当初から右損害の発生のおそれのあることを予知していながら、損害防止に必要な措置を請負人に具体的に命ずることなく工事を注文し施行させたものであつても、注文者の注文または指図に過失があつたものと認めることはできない。
請負人が第三者に与えた損害につき注文者の注文または指図に過失が認められないとされた事例
民法716条
判旨
注文者が工事の監督権限を有し、損害の発生を予知できたとしても、注文や指図に過失がない限り、注文者は民法716条により請負人の行為による損害の賠償責任を負わない。
問題の所在(論点)
注文者が請負契約に基づき広範な指示監督権限を有し、かつ損害発生を予知可能であった場合、具体的な措置を命じなかったことが民法716条但書の「注文又は指図」の過失に該当するか。
規範
注文者は原則として請負人がその仕事に関して第三者に加えた損害を賠償する責任を負わない(民法716条本文)。ただし、注文または指図について注文者に過失があった場合に限り、不法行為責任を負う(同条但書)。注文者が工事の監督権限を有し、かつ損害発生を予知し得た場合であっても、設計自体に過誤がなく、工事の具体的施行が請負人の自主的な判断に委ねられているときは、直ちに注文者に過失があるとは認められない。
重要事実
国(被上告人)が土木専門業者Dに対し林道開設工事を発注した。Dは長野県内有数の実績を持つ業者であった。国が作成した設計図等に過誤はなく、事故防止措置の費用も代金に加算されていた。契約上、国は工事監督員を派遣し指示監督する権限を有していたが、その目的は契約通りの施工を確保することに限定され、具体的な岩石の取捨て等はDの自主的判断に委ねられていた。Dの工事による落石で、隣接する上告人の発電施設が損害を受けたため、上告人が国の注文・指図の過失を主張して提訴した。
あてはめ
本件では、設計図・仕様書に瑕疵はなく、Dは十分な能力を持つ専門業者であり、事故防止費用も措置済みであった。国の監督権限は契約の確保を目的とするもので、工事の進行方法について具体的・詳細な指示義務を負うものではない。したがって、国が具体的措置を命じなかったとしても、注文や指図に過失があったとはいえない。また、賃貸人としての義務についても、上告人が自費で防護施設を完備する特約があった以上、国は妨害を認容する義務を負うにすぎず、債務不履行も成立しない。
結論
注文者に「注文又は指図」上の過失は認められず、民法716条但書の責任を負わない。また、使用収益を妨害したことについて国に帰責事由がなく、債務不履行責任も負わない。
実務上の射程
注文者の責任が肯定されるためには、設計図自体の瑕疵や、請負人の施工方法に対して注文者が具体的かつ直接的な干渉を行い、その指示が不適切であるといった事情が必要となる。単に「監督権限がある」「事故を予知できた」という抽象的な事情だけでは、716条但書の過失は認められにくい。
事件番号: 昭和43(オ)26 / 裁判年月日: 昭和43年12月24日 / 結論: 棄却
請負人の過失により建築中の建物が倒壊し、隣家の居住者に損害を与えた場合において、注文者が、土木出張所から建物の補強工作を完備するよう強く勧告を受けたにもかかわらず、請負人にその工作をさせることなく、所定の中間検査も受けないままで瓦葺作業に取りかからせたため、瓦の重みで右建物が倒壊するに至つた等判示の事情があるときは、右…