注文者が請負人に対し、注文者所有の旧木造建物を取り壊してその跡地一杯に鉄骨ブロック四階建てアパートの建築工事を請け負わせ、請負人の人夫が右旧建物に隣接する第三者所有の建物の屋根に上つて建築資材等を運搬し、屋根瓦上に資材等を落下させるなどして瓦を破壊し、それによる雨漏りによつて野地板、垂木が腐蝕するような損害を与えた場合において、旧建物と第三者所有の建物とが互いに屋根が重なり合うほど密着して建てられていたものであり、旧建物の跡地一杯にアパートを建築すれば、両者の間には、足場を組む余地も、落下物の防止措置を施す余裕もなかつたなどの事情(原判決理由参照)にあるときは、注文者に注文又は指図について過失があつたというべきである。
請負人が第三者に損害を与えた場合において注文者に注文又は指図について過失があるとされた事例
民法716条
判旨
建築工事の注文者は、専門的知識がなくとも被害を容易に予測し得た場合には、請負人に対し被害防止措置を命じ、又は工事を中止させるべき注意義務を負う。これを怠り工事を黙過した場合は、民法716条但書の「注文又は指図について過失」があったものとして損害賠償責任を負う。
問題の所在(論点)
民法716条は、原則として注文者の責任を否定するが、但書で「注文又は指図についてその注文者に過失があったとき」は責任を負うとする。注文者が専門的知識を有しない場合であっても、工事による被害を予見し得た際に、適切な措置(命令や中止)を講じなかったことが、同条但書の「過失」に該当するか。
規範
民法716条但書にいう「注文又は指図について過失があったとき」とは、注文者が請負人に対して具体的な指図を与えた場合に限られない。工事の施行により第三者に被害を及ぼすことを容易に予測し得た状況下では、注文者は請負人に対し被害防止措置を講ずるよう命ずる義務、及び請負人がこれに従わない場合に工事を中止させる等の注意義務を負う。これらの義務を尽くさず、工事の施行を黙過した場合には、同条但書の過失が認められる。
重要事実
建築工事の注文主(上告人)が、請負人に工事を施行させた際、隣接する建物(被上告人所有)に被害を及ぼす可能性があった。上告人は建築に関する専門的知識を有していなかったが、状況から被害の発生は容易に予測可能な状態であった。しかし、上告人は請負人に対して被害防止の措置を命じたり、工事を中止させたりすることなく、そのまま工事を継続させた。
あてはめ
上告人は専門的知識を有しないものの、工事の態様や現場状況から、被上告人の建物に被害が及ぶことを容易に予測できたといえる。この場合、上告人には被害防止措置を命ずる義務や、措置が講じられない場合に工事を中止させる注意義務が生じる。にもかかわらず、上告人はこれらの措置を講じることなく工事を黙過したのであるから、注意義務を尽くしておらず、注文又は指図について過失があったと評価される。
結論
上告人には民法716条但書の過失が認められるため、注文者としての不法行為責任を負う。本件上告は棄却される。
実務上の射程
注文者の不作為による過失を認めた点に実務上の重要性がある。答案では、注文者が素人であっても「被害予測の容易性」という客観的事実から注意義務を導き出し、適切な監督・是正措置を怠ったことをもって「注文又は指図の過失」と認定する流れで使用する。特に工作物責任(717条)の成否と併せて検討される場面が多い。
事件番号: 昭和42(オ)647 / 裁判年月日: 昭和45年7月16日 / 結論: 棄却
請負人の施行した道路開設工事による落石のため第三者に損害を生じた場合において、右損害が注文者の作成した設計図および仕様書自体のかしによつて生じたものではなく、注文者は請負人に対し、落石等により損害を生ずることのないような措置を講ずべきことを要求し、これに要する費用を加算して請負代金額を決定し、請負人も、その趣旨を諒承し…