XがAの意向を受けて開発,製造したゲーム機を順次XからY,YからAに継続的に販売する旨の契約が,締結の直前にAが突然ゲーム機の改良要求をしたことによって締結に至らなかった場合において,Yが,開発等の続行に難色を示すXに対し,Aから具体的な発注を受けていないにもかかわらず,ゲーム機200台を発注する旨を口頭で約したり,具体的な発注内容を記載した発注書及び条件提示書を交付するなどし,ゲーム機の売買契約が確実に締結されるとの過大な期待を抱かせてゲーム機の開発,製造に至らせたなど判示の事情の下では,Yは,Xに対する契約準備段階における信義則上の注意義務に違反したものとして,これによりXに生じた損害を賠償する責任を負う。
Xの開発,製造したゲーム機を順次XからY,YからAに販売する旨の契約が締結に至らなかった場合においてYがXに対して契約準備段階における信義則上の注意義務違反を理由とする損害賠償責任を負うとされた事例
民法1条2項,民法415条,民法709条
判旨
契約締結の準備段階において、一方の当事者が相手方に対し、将来契約が締結されることについて確実な期待を抱かせ、相手方がそれに基づき相当の費用を投じて準備行為を進めた場合、その期待が裏切られ契約締結に至らなかったことについて、信義則上の注意義務違反に基づく損害賠償責任を負う。
問題の所在(論点)
契約が正式に成立していない準備段階において、一方の言動により契約締結を信頼して費用を支出した相手方に対し、契約締結に至らなかったことに関する信義則上の注意義務違反(契約締結上の過失)に基づく損害賠償責任が認められるか。
規範
契約準備段階における信義則上の注意義務として、相手方に契約が締結されるとの強い期待を抱かせ、それに基づき相手方が費用を投じて準備行為をなすに至った場合、自己の行為によって相手方が開発・製造にまで至ることを認識しながら、最終的に契約締結に至らない事態を招いた当事者は、信頼を裏切ったことについて不法行為上の賠償責任(または信義則上の責任)を負う。これは、交渉決裂に相手方の責任が一端あるとしても、直ちに免責されるものではない。
重要事実
ゲーム機開発業者である上告人は、被上告人(商社)から米国A社向け装置の開発を打診された。上告人は契約未締結での開発に難色を示したが、被上告人は「発注書」の交付や口頭での正式発注の約束、代金提案等を行い、上告人に契約締結への強い期待を抱かせた。上告人はこれを信頼し、多額の費用を投じて金型製作や量産準備を完了させた。しかし、最終段階でA社代表者が無理な仕様変更を要求して交渉が決裂し、被上告人は契約締結を拒絶した。原審は、交渉決裂の原因がA社や上告人にあるとして責任を否定したが、上告人が上告した。
あてはめ
被上告人は、A社から確定的な発注を受けていない不安定な立場にありながら、上告人に対し「発注書」を交付するなどして契約締結への「過大な期待」を抱かせた。被上告人は、上告人がその信頼に基づき開発・製造にまで至ることを十分に認識していたといえる。交渉決裂の主因がA社の遅まきながらの改良要求にあり、上告人の対応にも一端の責任があるとしても、被上告人が上告人に抱かせた期待の程度やそれに基づく上告人の投資事実に照らせば、被上告人の行為は信義則上の注意義務に違反する。
結論
被上告人には、契約準備段階における信義則上の注意義務違反が認められ、上告人に生じた損害を賠償する責任を負う。原判決のうち予備的請求に関する部分を破棄し、差し戻す。
実務上の射程
契約締結上の過失の典型例。契約成立前であっても、当事者の言動により相手方に生じさせた「信頼」が法的保護に値する場合、その信頼を裏切る不誠実な言動があれば賠償責任を免れない。答案上は、契約が未成立であることを前提に、(1)当事者間の密接な関係、(2)一方の誘引・働きかけ、(3)相手方の信頼の相当性、(4)信頼に基づく費用の支出、という要素を検討し、信義則違反(不法行為責任)を構成する際に用いる。
事件番号: 平成17(受)1016 / 裁判年月日: 平成18年9月4日 / 結論: 破棄差戻
建物の建具の納入等についての下請業者が施工業者との間で下請契約を締結する前に下請の仕事の準備作業を開始した場合において,(1)竣工予定時期に間に合うよう下請の仕事を完成するためには,施主が施工業者を決定する前に上記準備作業を開始する必要があったこと,(2)施主は,設計監理者の説明を受けて,下請業者に上記準備作業の開始を…
事件番号: 平成19(受)808 / 裁判年月日: 平成20年6月12日 / 結論: その他
1 放送事業者又は放送事業者が放送番組の制作に協力を依頼した関係業者から放送番組の素材収集のための取材を受けた取材対象者が,取材担当者の言動等によって,当該取材で得られた素材が一定の内容,方法により放送に使用されるものと期待し,あるいは信頼したとしても,その期待や信頼は原則として法的保護の対象とはならない。もっとも,当…