売買契約締結の過程において、その目的物、代金の額及び支払時期、契約締結の時期などを当事者の双方が了解し、買主となる者が、売主となる者に確実に契約が成立するとの期待を抱かせるに至ったにもかかわらず、一方的、無条件に契約の締結を拒否し、これを正当視すべき特段の事情もないなど原判示の事実関係の下においては、買主となる者は、売主となる者に対し、信義則上の義務違反を理由とする不法行為責任を負う。
契約準備段階にある当事者の一方が契約の締結を拒否したことにつき不法行為責任を負うとされた事例
民法1条2項,民法709条
判旨
契約締結の準備段階において、当事者間に信義則上の注意義務が生じ、一方の不当な破棄により相手方が被った損害については、不法行為責任(民法709条)に基づき賠償すべきである。
問題の所在(論点)
契約が未だ成立していない契約準備段階において、一方の交渉破棄行為が信義則上の義務違反として、民法709条に基づく損害賠償責任を発生させるか。
規範
契約準備段階における信義則上の注意義務の法理によれば、契約締結に向けた交渉が相当程度進行し、一方が契約の成立を確実に期待し得る状態に達した場合には、他方は当該期待を不当に侵害しないよう努めるべき信義則上の義務を負う。これに反して正当な理由なく契約の締結を拒絶し、相手方に損害を与えたときは、不法行為に基づく損害賠償責任を負うものと解される。
重要事実
本件では、当事者間において契約締結に向けた具体的な準備が進められていた。上告人と相手方との間で交渉が継続され、契約成立が目前に迫った準備段階にまで至っていたが、最終的に上告人が契約の締結を拒否した。この拒絶により、相手方には契約成立を信頼して支出した費用等の損害が発生した(詳細は判決文からは不明だが、原審により信義則上の義務違反が認定されている)。
あてはめ
原審が認定した事実関係によれば、上告人と相手方の関係は単なる交渉段階を超え、契約成立への期待が生じる準備段階にあった。上告人がこの段階で契約を破棄したことは、相手方の正当な期待を裏切るものであり、信義則上の注意義務に違反すると評価される。したがって、上告人の行為は違法性を有し、不法行為に基づく賠償責任を負うのが相当である。
結論
契約準備段階における信義則上の義務違反を認め、不法行為に基づく損害賠償請求を認容した原判決は正当である。
実務上の射程
契約自由の原則の例外として、交渉破棄が不法行為となり得ることを認めたリーディングケースである。答案上は、契約締結上の過失が問題となる場面で、709条を根拠に「信頼利益」の賠償を認める際の規範として活用する。交渉の成熟度(期待の合理性)と破棄の不当性を具体的事実から抽出することが重要となる。
事件番号: 平成17(受)1016 / 裁判年月日: 平成18年9月4日 / 結論: 破棄差戻
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