土地売買契約の当事者双方から所有権移転登記手続についての代理を嘱託された司法書士が,当該土地につき払下げを登記原因として所有権移転登記を受けた会社から売主に対して真正な登記名義の回復を登記原因として所有権移転登記がされていること並びに上記会社と商号及び本店所在地を同じくする株式会社が時期を異にして2社存在した事実がうかがわれることのみを理由に,上記売買契約の決済日の当日になって,突然,当事者双方に対し,当該土地についての実体的所有関係を確定することができず,上記売買契約によって当該土地の所有権が買主に移転するとは限らない旨を述べ,上記嘱託を拒んだことには,正当な事由があるとはいえない。
土地売買契約の当事者双方から所有権移転登記手続についての代理を嘱託された司法書士が嘱託を拒んだことに正当な事由がないとされた事例
司法書士法(平成14年法律第33号による改正前のもの)8条民法709条
判旨
司法書士が正当な事由なく登記嘱託を拒み、かつ実体上の権利関係に疑義がある旨を説明や調査もせず不用意に述べる行為は、職務上の義務に違反する違法な行為として不法行為を構成する。
問題の所在(論点)
司法書士が登記原因等の不審を理由に嘱託を拒み、かつ買主らの前で所有権の移転に疑義を呈した行為について、司法書士法上の受託義務違反および不法行為の成否が問題となる。
規範
司法書士は、正当な事由がある場合でなければ登記手続の代理事務等の嘱託を拒むことができない(司法書士法8条)。司法書士が登記原因や登記名義人の同一性等に懸念を抱いたとしても、嘱託人に対し説明や資料提出を求める等の調査・確認をせず、合理的な根拠なしに実体的所有関係に疑義がある旨を述べて嘱託を拒むことは、同法上の義務に違反し、不法行為法上も違法となる。
重要事実
不動産売買において、売主(被上告人)と買主の双方は、司法書士(上告人)に対し移転登記を嘱託した。しかし、上告人は決済当日に突然、登記簿上の「払下」や「真正な登記名義の回復」等の経緯が不自然であり所有権移転が確実ではないと主張し、嘱託を拒絶した。この発言を聞いた買主は不安を抱き契約を解除した。実際には「払下」は私法上の売買であり、登記経緯に不自然な点はなく、商業登記簿等を確認すれば名義人の同一性も容易に確認できる状態であった。
あてはめ
上告人は「払下」を公売と同視したが、これは私法上の売買であり登記原因として不自然ではない。また、会社名義の同一性に懸念があったとしても、被上告人に説明や資料を求める等の調査をすれば容易に解消できたはずである。それにもかかわらず、決済当日に突然、合理性を欠く判断に基づき「所有権が移転するとは限らない」と断定的な発言をして嘱託を拒んだことは、正当な事由に基づくものとは認められない。
結論
上告人の嘱託拒否および不適切な発言には正当な事由がなく違法である。よって、これにより売買契約解除等の損害を被った被上告人に対し、不法行為に基づく損害賠償責任を負う。
実務上の射程
司法書士の受託義務(司法書士法8条)の具体化であるとともに、専門家が根拠なく取引の安全を害する発言をした場合の対第三者(本件では嘱託人である売主)への不法行為責任を認める際の基準となる。
事件番号: 平成31(受)6 / 裁判年月日: 令和2年3月6日 / 結論: 破棄差戻
所有名義人がAである不動産について,Aを売主,Bを買主とする売買契約,Bを売主,Xを買主とする売買契約,Xを売主,Cを買主とする売買契約が順次締結され,AからBへの所有権移転登記の申請(以下「前件申請」という。)及びBから中間省略登記の方法によるCへの所有権移転登記の申請(以下「後件申請」という。)が同時にされたが,前…