1 建築士は,その業務を行うに当たり,建築物を購入しようとする者に対する関係において,建築士法3条から3条の3まで及び建築基準法(平成10年法律第100号による改正前のもの)5条の2の各規定等による規制の潜脱を容易にする行為等,その規制の実効性を失わせるような行為をしてはならない法的義務があり,故意又は過失によりこれに違反する行為をした場合には,その行為により損害を被った建築物の購入者に対し,不法行為に基づく賠償責任を負う。 2 一級建築士又は二級建築士による設計及び工事監理が必要とされる建物の建築につき一級建築士が建築確認申請手続を代行した場合において,建築主との間で工事監理契約が締結されておらず,将来締結されるか否かも未定であるにもかかわらず,当該一級建築士が,建築主の求めに応じて建築確認申請書に自己が工事監理を行う旨の実体に沿わない記載をし,工事監理を行わないことが明確になった段階でも,建築主に工事監理者の変更の届出をさせる等の適切な措置を執らずに放置したこと,そのため,実質上,工事監理者がいない状態で建築された当該建物が重大な瑕疵のある建築物となったことなど判示の事情の下においては,当該一級建築士の上記行為は,建築士法3条の2及び建築基準法(平成10年法律第100号による改正前のもの)5条の2の各規定等による規制の実効性を失わせる行為をしたものとして当該建物を購入した者に対する不法行為となる。
1 建築士が建築士法3条から3条の3まで及び建築基準法(平成10年法律第100号による改正前のもの)5条の2の各規定等による規制の実効性を失わせる行為をした場合における建築物の購入者に対する不法行為の成否 2 建築確認申請書に自己が工事監理を行う旨の実体に沿わない記載をした一級建築士が建築主に工事監理者の変更の届出をさせる等の適切な措置を執らずに放置した行為が当該建築主から瑕疵のある建物を購入した者に対する不法行為となるとされた事例
民法709条,建築士法3条,建築士法3条の2,建築士法3条の3,建築士法(平成9年法律第95号による改正前のもの)18条,建築基準法(平成10年法律第100号による改正前のもの)5条の2
判旨
建築士が建築確認申請において実体に沿わない工事監理者としての記載をした場合、規制の潜脱を容易にする行為として、建物購入者に対する関係で不法行為上の法的義務に違反した責任を負う。
問題の所在(論点)
建築士が、工事監理契約を締結していない建物の建築確認申請において自己を工事監理者と記載し、その後適切な措置を執らずに放置した行為が、建物購入者に対する不法行為(民法709条)を構成するか。
規範
建築士は、建築基準法等の規制の実効性を確保し、安全な建築物を提供する専門的地位にある。そのため、建築士は、新築建物を購入しようとする者に対し、法令による規制の潜脱を容易にするなど、規制の実効性を失わせるような行為をしてはならない法的義務を負う。故意又は過失によりこれに違反し、購入者に損害を与えた場合、不法行為に基づく賠償責任を負う。
重要事実
一級建築士Dは、建築主Eから設計と確認申請手続を依頼されたが、工事監理契約は未締結であった。しかし、行政指導に対処するため、Dは自らを工事監理者とする実体に沿わない記載を申請書に行い、確認を得た。その後、Dは工事監理の依頼がないまま放置し、変更届出等の措置も執らなかった。結果、Eは工事監理者不在のまま設計図書と異なる手抜き工事を行い、重大な瑕疵のある建物を完成させ、それを知らずに購入した被上告人らに損害が生じた。
あてはめ
Dは実体に沿わない工事監理者の記載を行った以上、自己が監理を行わないことが明確になった段階で、法令違反の工事を防ぐため、建築主に対し監理者変更届出をさせる等の適切な措置を執るべき義務がある。これを放置したことは、建築主による規制潜脱を容易にし、規制の実効性を失わせたといえる。この義務違反(過失)と、重大な瑕疵ある建物を購入したことによる損害との間には因果関係が認められ、違法性が肯定される。
結論
上告人(建築士Dの所属会社)は、被上告人らに対し、不法行為に基づく損害賠償責任を負う。
実務上の射程
契約関係にない第三者(建物購入者)に対する建築士の責任を認めた重要判例。名義貸しに近い実体に沿わない記載が、法令遵守を期待する購入者への不法行為となり得ることを示す。答案では「法的保護に値する利益」や「違法性」の文脈で、建築士の公的役割・専門的地位を強調する際に引用する。
事件番号: 平成22(受)2101 / 裁判年月日: 平成25年3月26日 / 結論: 棄却
1 建築士の設計に係る建築物の計画についての建築主事による建築確認は,当該計画の内容が建築基準関係規定に明示的に定められた要件に適合しないものであるときに,申請書類の記載事項における誤りが明らかで,当該事項の審査を担当する者として他の記載内容や資料と符合するか否かを当然に照合すべきであったにもかかわらずその照合がされな…