1 建築士の設計に係る建築物の計画についての建築主事による建築確認は,当該計画の内容が建築基準関係規定に明示的に定められた要件に適合しないものであるときに,申請書類の記載事項における誤りが明らかで,当該事項の審査を担当する者として他の記載内容や資料と符合するか否かを当然に照合すべきであったにもかかわらずその照合がされなかったなど,建築主事が職務上通常払うべき注意をもって申請書類の記載を確認していればその記載から当該計画の建築基準関係規定への不適合を発見することができたにもかかわらずその注意を怠って漫然とその不適合を看過した結果当該確認を行ったと認められる場合に,国家賠償法1条1項の適用上違法となる。 2 一級建築士により構造計算書に次の(1)ア〜ウの偽装が行われていた建築物の計画に係る建築主事による建築確認は,次の(2)ア〜ウなど判示の事情の下においては,国家賠償法1条1項の適用上違法となるとはいえない。 (1)ア 開口部が広くつなぎ梁がぜい弱である耐震壁につき,本来の2枚ではなく1枚の耐震壁としてモデル化して応力の計算がされていた。 イ 1階の剛性率は,10分の6以上ではなかったのに,10分の6以上とされていた。 ウ 耐力壁の断面の検討における設計用せん断力につき,当該構造計算書で用いられている国土交通大臣の認定等を受けたプログラムによる応力解析結果と異なる何の根拠もない数値が手作業で入力されていた。 (2)ア 当時の建築基準関係規定には,建築物のモデル化の在り方や内容に関する定めがなかった。 イ 1階の剛性率は,適切な入力データに基づき上記プログラムにより計算された結果として記載されていた。 ウ 国土交通大臣の認定等を受けたプログラムは100種類以上あってその種類や追加機能の有無により手作業で入力すべき項目の範囲等が多種多様である上,当該構造計算書における上記プログラムの出力結果は膨大なものであり手作業で入力された数値も相当多岐にわたっていた。 剛性率 :地震荷重に対して求められる層間変形角の逆数を各階の層間変形角の逆数の全階にわたる平均値で除した比率 せん断力:部材等の断面に作用する応力のうちその断面の両側を相互に逆方向にずれさせるように働く力
1 建築士の設計に係る建築物の計画についての建築主事による建築確認が国家賠償法1条1項の適用上違法となる場合 2 一級建築士により構造計算書に偽装が行われていた建築物の計画についての建築主事による建築確認が国家賠償法1条1項の適用上違法となるとはいえないとされた事例
建築基準法(平成16年法律第111号による改正前のもの)6条1項,建築基準法(平成18年法律第92号による改正前のもの)6条3項,建築基準法(平成18年法律第92号による改正前のもの)6条4項,建築基準法(平成18年法律第92号による改正前のもの)6条5項,国家賠償法1条1項
判旨
建築主事は、確認申請をする建築主との関係でも、違法な建築物の出現を防止すべき一定の職務上の法的義務を負うが、その違法性は、建築主事が職務上通常払うべき注意をもって申請書類を確認していれば不適合を発見できたにもかかわらず、漫然とこれを看過した場合に限り認められる。
問題の所在(論点)
建築主事が建築確認の際、建築士による構造計算書の偽装を看過した場合、建築主に対する関係で国家賠償法1条1項の職務上の義務違反(違法性)が認められるか。また、その判断基準はいかなるものか。
規範
建築主事が建築確認において負う職務上の法的義務は、建築士が法令に従い誠実に設計を行う義務を負うことを前提としている。したがって、建築確認が国家賠償法1条1項の適用上違法となるのは、申請書類の記載事項における誤りが明らかで、当然に照合すべきであったにもかかわらず、職務上通常払うべき注意を怠って漫然とその不適合を看過したと認められる場合に限られる。
重要事実
建築主である上告人が、一級建築士による構造計算書の数値偽装(耐震壁のモデル化の誤り、剛性率の虚偽記載、数値の手入力ミス等)を看過して建築確認を行った建築主事の所属する自治体に対し、損害賠償を請求した。当該構造計算書は大臣認定プログラムを用いて作成されており、外見上は適正な計算結果として記載されていたが、実際には震度6強で倒壊する恐れのある不適合な建築物であった。
あてはめ
本件の偽装点(モデル化等)について、当時の規定には明示的な定めがなく、不適合が客観的に明白とはいえない。また、剛性率や設計用せん断力の数値についても、建築士により作成された膨大な書類中に大臣認定プログラムの出力結果として記載されており、建築主事がその基礎となる入力データの適否に疑問を抱き、逐一照合すべきであったとまではいえない。したがって、通常払うべき注意をもってしても不適合の発見は困難であり、漫然と看過したとは認められない。
結論
本件建築確認が国家賠償法1条1項の適用上違法であるとはいえず、上告人の請求は棄却されるべきである。
実務上の射程
建築主事の審査は、専門家である建築士の設計が適正であることを前提とする「書面審査」が原則であることを明示した。建築主に対しても職務上の義務を負うとする一方で、その違法性判断は「明らかな誤りの看過」という限定的な枠組みで行うべきことを示している。答案上は、建築確認の「迅速性」や「建築士制度への信頼」を理由に、限定的な注意義務を導く際に活用する。
事件番号: 昭和31(オ)395 / 裁判年月日: 昭和34年5月14日 / 結論: 棄却
注文者の指定場所に建物を建築すべき請負契約において、注文者が建築確認を受け得るかどうかは、右事情が当事者間で特に契約の内容とされないかぎり、契約の要素と解すべきではない。