幼児が、テニスの審判台に昇り、その後部から座席部分の背当てを構成している左右の鉄パイプを両手で握つて降りようとしたために転倒した審判台の下敷きになつて死亡した場合において、当該審判台には、本来の用法に従つて使用する限り、転倒の危険がなく、右幼児の行動が当該審判台の設置管理者の通常予測し得ない異常なものであつたなど判示の事実関係の下においては、設置管理者は、右事故につき、国家賠償法二条一項所定の損害賠償責任を負わない。
幼児が公の営造物を設置管理者の通常予測し得ない異常な方法で使用して生じた事故につき設置管理者が損害賠償責任を負わないとされた事例
国家賠償法2条1項
判旨
国家賠償法2条1項の設置・管理の瑕疵とは、営造物が通常有すべき安全性を欠くことをいい、本来の用法に従って使用する限り危険がない営造物につき、管理者が通常予測し得ない異常な方法で利用された結果生じた事故についてまで責任を負うものではない。
問題の所在(論点)
国家賠償法2条1項にいう「瑕疵」の有無に関し、営造物の本来の用法ではない異常な使用方法によって生じた事故について、管理者の責任が認められるか。
規範
国家賠償法2条1項の「瑕疵」とは、公の営造物が「通常有すべき安全性」を欠いていることをいう。その判断にあたっては、当該営造物の構造、本来の用法、場所的環境、利用状況等の諸般の事情を総合的に考慮すべきである。特に、本来の用法に従えば安全な営造物については、管理者は原則としてその範囲で責任を負い、通常予測し得ない異常な用法による事故についてまで責任を負うものではない。
重要事実
公立中学校の校庭に設置されていたテニス審判台(高さ1.4m、重量24kg)において、当時5歳の幼児Fが、座席背当ての鉄パイプを両手で握って後部から降りようとしたため、審判台が後方に転倒し、Fが下敷きとなって死亡した。当該審判台は20年余り事故がなく、本来の階段による昇降という用法に従う限り、転倒の危険はない構造であった。校庭は一般市民に開放され、幼児の遊び場にもなっていたが、本件事故当時、Fには保護者が同伴していた。
あてはめ
本件審判台は、本来の用法である階段による昇降を行う限り安全であり、20年間の無事故という実績からも「通常有すべき安全性」を備えていたといえる。これに対し、Fが背当てを握って後部から降りるという行動は、本来の用法から著しく外れた「異常な用法」であり、設置管理者が通常予測し得べきものとはいえない。また、校庭が開放されている場合でも、管理者が幼児のあらゆる行動を完全に防止することは不可能であり、第一次的な注意義務は保護者にある。本件では保護者が同伴しており、危険な行動を制止することも容易であった。したがって、本件事故は営造物の安全性の欠如ではなく、予測不可能な異常な行動に起因するものと評価される。
結論
本件審判台に設置・管理の瑕疵は認められず、上告人(設置管理者)は国家賠償法2条1項の責任を負わない。
実務上の射程
営造物の瑕疵の判断において「本来の用法」を重視し、管理者の責任範囲を限定した。答案上は、被害者側の「異常な行動」や「予測可能性の欠如」を指摘し、瑕疵(客観的安全性の欠如)を否定する際の有力な論拠となる。特に学校施設等が一般開放されている事案で、管理者に過度な負担を課さないための基準として活用できる。
事件番号: 昭和53(オ)854 / 裁判年月日: 昭和53年12月22日 / 結論: 棄却
本件事故現場における本件用水溝は、その護岸壁の高さや水深(原判示参照)からいつて通常の幼児や成人にとつてその生命、身体に危険を生じさせるものではなく、このような営造物については、本件被害者のような一年七月程度の乳幼児が保護者の監護を離れたために生ずべき事故をも防止しうるような措置が講じられていなくても、その管理に瑕疵が…