酔客が遊歩道上の防護柵を越えて約一・五メートル直下の河川敷に設置された熱湯を貯溜する蓋のない本件荒湯桶に転落して死亡した事故につき、防護柵が警告用立札の設置や夜間照明の実施等の措置とあいまつて、その材質、高さ、形状等に照らし、転落防止の機能に欠けるところがなく、事故は、右酔客が酩酊して、附近に設置された休憩用長椅子を利用せず、防護柵に後向きに腰掛けようとして身体の平衡を失うという通常の用法に即しない行動に基づくものであり、右行動が設置管理者の通常予測することのできないものであつた等判示の事実関係のもとにおいては、本件荒湯桶の設置又は管理に瑕疵があるとはいえない。
酔客が遊歩道上の防護柵を越えて荒湯桶に転落死亡した事故につき営造物の設置又は管理に瑕疵がないとされた事例
国家賠償法2条1項
判旨
国家賠償法2条1項の設置・管理の瑕疵は、営造物が通常有すべき安全性を欠くことをいい、利用者の通常予測できない不正常な行動に起因する事故については、安全性を欠くとはいえない。
問題の所在(論点)
利用者の不正常な行動が介在した場合において、公の営造物の「設置又は管理に瑕疵」(国家賠償法2条1項)があったといえるか。
規範
国家賠償法2条1項にいう営造物の設置又は管理の瑕疵とは、営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいう。その存否については、当該営造物の構造、用法、場所的環境、利用状況等諸般の事情を総合的に考慮して判断すべきである。特に、設置管理者が通常予測できないような不正常な用法による事故が生じた場合には、原則として設置・管理の瑕疵は否定される。
重要事実
観光地の遊歩道に設置された防護柵(高さ40cm、鉄パイプ製)から、相当程度銘酊した男性(36歳)が、柵に後ろ向きに腰掛けようとして身体の平衡を失い、1.5m下の熱湯が貯留する荒湯桶に転落・死亡した。現場には警告看板や夜間照明があり、近隣にベンチも設置されていたが、過去に同様の転落事故は発生していなかった。
あてはめ
本件防護柵は、その構造や周囲の警告・照明状況に照らせば、歩行者の転落防止という本来の機能に欠けるところはなかったといえる。また、被害者は銘酊した上で、近くにベンチがあるにもかかわらず、本来腰掛けるためのものではない細い鉄パイプの柵に後ろ向きに腰掛けようとしており、これは「通常予測できない行動」に起因する不正常な用法である。かかる用法を前提とした安全確保義務まで管理者に課すことはできず、防護柵の嵩上げや湯桶の蓋の設置がなかったとしても、通常有すべき安全性を欠いていたとは評価できない。
結論
本件防護柵および荒湯桶の設置・管理に瑕疵は認められず、上告人(自治体)は賠償責任を負わない。
実務上の射程
営造物の瑕疵の有無を判断する際、利用者の「本来の用法」や「予測可能性」を重視する枠組みとして活用する。特に、被害者の過失が極めて大きい場合に、過失相殺で処理するのではなく、そもそも「瑕疵」自体を否定する論理として答案に組み込むことができる。
事件番号: 昭和53(オ)854 / 裁判年月日: 昭和53年12月22日 / 結論: 棄却
本件事故現場における本件用水溝は、その護岸壁の高さや水深(原判示参照)からいつて通常の幼児や成人にとつてその生命、身体に危険を生じさせるものではなく、このような営造物については、本件被害者のような一年七月程度の乳幼児が保護者の監護を離れたために生ずべき事故をも防止しうるような措置が講じられていなくても、その管理に瑕疵が…