本件事故現場における本件用水溝は、その護岸壁の高さや水深(原判示参照)からいつて通常の幼児や成人にとつてその生命、身体に危険を生じさせるものではなく、このような営造物については、本件被害者のような一年七月程度の乳幼児が保護者の監護を離れたために生ずべき事故をも防止しうるような措置が講じられていなくても、その管理に瑕疵があるとはいえない。
一年七月の幼児が用水溝に転落して水死した事故につき用水溝の管理の瑕疵が否定された事例
国家賠償法2条1項
判旨
公の営造物の設置管理上の瑕疵(国家賠償法2条1項)は、当該営造物が通常有すべき安全性を欠いているかを基準に判断される。通常の幼児や成人に危険を及ぼさない施設であれば、保護者の監護を離れた乳幼児の事故を予見して防止措置を講ずる義務はなく、瑕疵は否定される。
問題の所在(論点)
通常の歩行者等にとって危険のない用水溝において、保護者の監護を離れた乳幼児が転落した場合、当該営造物に国家賠償法2条1項の「設置又は管理の瑕疵」が認められるか。
規範
国家賠償法2条1項にいう営造物の設置又は管理の瑕疵とは、営造物が通常有すべき安全性を欠いている状態をいう。その判断にあたっては、当該営造物の本来の目的、利用形態、及び通常想定される利用者の属性を基準とし、管理者に対して予測不能かつ回避不可能な特別の事情による事故まで防止すべき義務を課すものではない。
重要事実
1歳7ヶ月の幼児Dが、保護者の監護を離れて一人で歩いている際に本件用水溝に転落して死亡した。当該用水溝は、護岸壁の高さや水深に照らして、通常の幼児や成人が利用するにあたって生命・身体に危険を生じさせるような構造ではなかった。
あてはめ
本件用水溝は、護岸壁の高さや水深からみて、通常の幼児や成人にとって危険なものではなかったといえる。このような営造物の管理者は、1歳7ヶ月程度の乳幼児が保護者の監護を離れて一人で行動するという、本来想定し難い事態によって生ずる事故まで予見し、その防止措置を講ずる義務を負うとは解されない。したがって、当該用水溝が通常有すべき安全性を欠いていたとは評価できない。
結論
本件用水溝の設置又は管理に瑕疵があったとは認められず、被上告人らの賠償責任は否定される。
実務上の射程
営造物の瑕疵の有無を判断する際の「通常有すべき安全性」の基準を示す。特に、利用者が本来受けるべき監護(親権者の監督等)を前提とした安全性で足りることを示唆しており、管理者の責任範囲を限定する際の有力な規範となる。答案では、被害者の属性や行動が「通常想定される範囲内か」を検討する際に用いる。
事件番号: 昭和57(オ)330 / 裁判年月日: 昭和58年10月18日 / 結論: 棄却
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