港湾施設の建設工事中である埋立地内の道路を夜間走行していた自動車が岸壁から海中に転落して運転者が死亡した場合において、右埋立地内の道路が一般車両の通行する都市計画幹線道路と舗装ずみの取付道路をもつて結ばれているため、港湾施設工事に関係のない一般車両であつても取付道路を通つて埋立地内の道路に入ることができるようになつており、とくに夜間には一般人が釣やドライブの目的で立ち入ることがないではないのに、取付道路の入口付近には立入禁止、立入制限の掲示等は設置されておらず、また、現場付近の夜間照明も対岸の埋立地にあるものだけであるため、一般人にとつて一般道路と埋立地内の道路との区別がつかず、夜間とくに雨天等の視界不良の状態が重なつたときは、土地不案内の自動車運転者にとつて道路前方に岸壁があつてこれが海面と接していることを識別することが必ずしも容易でない状況にあるなど、原判示の事実関係のもとでは、埋立地の管理には瑕疵がある。
港湾施設の建設工事中である埋立地内の道路を夜間走行していた自動車が岸壁から海中に転落して運転者が死亡した場合において右埋立地の管理に瑕疵があるとされた事例
国家賠償法2条1項
判旨
公の営造物の設置管理の瑕疵とは、営造物が通常有すべき安全性を欠くことをいい、利用に伴う事故発生の危険が客観的に存在し、それが通常の予測の範囲内であれば、管理者は事故防止のための安全施設を設置する義務を負う。
問題の所在(論点)
本来は一般車両の通行を目的としない建設中の港湾施設において、一般車両の進入による転落事故を防止する施設が設置されていないことが、国賠法2条1項の「瑕疵」にあたるか。
規範
国家賠償法2条1項にいう「設置又は管理の瑕疵」とは、営造物が通常有すべき安全性を欠いている状態をいう。具体的には、当該営造物の利用に付随して死傷等の事故が発生する危険性が客観的に存在し、かつ、その危険が通常の予測の範囲内である場合には、管理者はその事故を未然に防止するための安全施設を設置する義務を負う。本来の設置目的(港湾荷役等)と異なる利用であっても、立入りの容易性や先行例からその利用が予測可能であれば、安全確保義務を否定できない。
重要事実
建設中の埋立地(後の北九州市管理)にて、深夜に軽自動車を運転していたDが岸壁から海中に転落し死亡した。現場は一般道路と舗装された取付道路で直結しており、一般車両の立入りが容易であった。夜間、釣りやドライブ目的の車両が立ち入る実態があったが、入口に立入禁止の表示はなく、岸壁付近に危険標識や車止めもなかった。事故当時は雨ともやで視界が悪く、対岸の照明が道路の延長線のように見える錯覚が生じやすい状況であった。
あてはめ
本件では、取付道路が一般道と結ばれ舗装されていたため、一般車両の立入りが極めて容易であり、実際に夜間の立入りも行われていたことから、車両進入の可能性は通常の予測の範囲内であったといえる。また、夜間や悪天候時には岸壁と海面の識別が困難で、転落の危険が客観的に存在した。したがって、管理者は夜間識別可能な立入禁止標識や岸壁の危険標識を設置すべき最小限の義務があったといえる。本来の用途が港湾荷役であることや工事中であることを理由に、この予測可能性や措置義務を否定することはできない。
結論
本件埋立地の管理には瑕疵があったと認められ、また、適切な標識等の設置があれば事故を回避できた可能性を否定できないため、因果関係も認められうる。したがって、瑕疵を否定し因果関係を欠くと断じた原審の判断は違法である。
実務上の射程
営造物の本来の目的外の利用であっても、客観的な危険性があり、かつ利用実態から予測可能であれば瑕疵が認められるという判断枠組みを示している。特に、道路・港湾等のインフラの瑕疵が問題となる事案で、管理者の予見可能性と結果回避措置の必要性を論じる際の基幹的な判例として用いる。
事件番号: 昭和53(オ)854 / 裁判年月日: 昭和53年12月22日 / 結論: 棄却
本件事故現場における本件用水溝は、その護岸壁の高さや水深(原判示参照)からいつて通常の幼児や成人にとつてその生命、身体に危険を生じさせるものではなく、このような営造物については、本件被害者のような一年七月程度の乳幼児が保護者の監護を離れたために生ずべき事故をも防止しうるような措置が講じられていなくても、その管理に瑕疵が…