四歳九月の男児が貯水槽に転落して溺死する事故が発生した場合において、貯水槽が住宅団地内にあり、その防護網の上部にいわゆる忍び返しが設置されていなかつたとしても、右防護網が一・三メートルの高さで貯水槽の周囲に完全に張りめぐらされているのに、同児が防護網によじ登つて転落したものであるなど原判示の事情があるときは、同児の行動は通常予測することのできないものであり、貯水槽の設置管理に瑕疵があるとはいえない。
四歳九月の男児が貯水槽に転落して溺死した事故につき貯水槽の設置管理に瑕疵がないとされた事例
国家賠償法2条1項
判旨
土地の工作物の設置又は保存の瑕疵(民法717条1項)の有無は、当該工作物が通常有すべき安全性を備えているか否かによって判断される。通常予測することのできない異常な行動によって事故が発生した場合には、工作物の設置・管理に瑕疵があったとは認められない。
問題の所在(論点)
民法717条1項の「設置又は保存の瑕疵」の有無を判断するにあたり、利用者の異常な行動をどの程度考慮すべきか。
規範
民法717条1項にいう「設置又は保存に瑕疵がある」とは、工作物がその種類、性質等に応じて通常有すべき安全性を欠いている状態をいう。この安全性は、当該工作物の本来の用途・目的や、通常想定される利用者の行動を基準に判断されるべきであり、通常予測することのできない異常な行動によって生じた事故についてまで、直ちに安全性を欠くと解することはできない。
重要事実
被害者D(上告人らの子)が、被上告人が管理する貯水槽において事故に遭い、死亡(または負傷)した。上告人らは、貯水槽の設置または管理に瑕疵があったとして損害賠償を請求した。しかし、本件事故は被害者Dによる「通常予測することのできない行動」によって引き起こされたものであった(具体的なDの行動内容は判決文からは不明)。
あてはめ
本件貯水槽において、利用者が通常行うであろう行動の範囲を超えた、管理者が通常予測することのできないDの行動が事故の直接的な原因となった。工作物の安全性は、客観的に想定される通常の利用態様を基準に判断されるべきところ、本件のように予測不可能な異常な行動による事故まで防止する義務を管理者に課すことはできない。したがって、貯水槽が通常有すべき安全性を欠いていたとは評価できない。
結論
本件貯水槽の設置または管理に瑕疵があったということはできず、不法行為責任(民法717条1項)は成立しない。
実務上の射程
工作物責任の「瑕疵」を論じる際、被害者側の不適切な態様(異常な利用方法)が介在した場合に、不可抗力や予測可能性の欠如を理由として瑕疵を否定するロジックとして活用できる。答案では、まず本来の用法に照らした安全性の基準を立て、本件の事実がその予測範囲内か否かを評価する流れとなる。
事件番号: 昭和46(オ)887 / 裁判年月日: 昭和50年6月26日 / 結論: 棄却
県道上に道路管理者の設置した掘穿工事中であることを表示する工事標識板、バリケード及び赤色灯標柱が倒れ、赤色灯が消えたままになつていた場合であつても、それが夜間、他の通行車によつて惹起されたものであり、その直後で道路管理者がこれを原状に復し道路の安全を保持することが不可能であつたなど判示の事実関係のもとでは、道路の管理に…