1 証券会社の担当者が,顧客の意向と実情に反して,明らかに過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘するなど,適合性の原則から著しく逸脱した証券取引の勧誘をしてこれを行わせたときは,当該行為は不法行為法上も違法となる。 2 証券会社甲の担当者が顧客である株式会社乙に対し株価指数オプションの売り取引を勧誘してこれを行わせた場合において,当該株価指数オプションは証券取引所の上場商品として広く投資者が取引に参加することを予定するものであったこと,乙は20億円以上の資金を有しその相当部分を積極的に投資運用する方針を有していたこと,乙の資金運用業務を担当する専務取締役らは,株価指数オプション取引を行う前から,信用取引,先物取引等の証券取引を毎年数百億円規模で行い,証券取引に関する経験と知識を蓄積していたこと,乙は,株価指数オプションの売り取引を始めた際,その損失が一定額を超えたらこれをやめるという方針を立て,実際にもその方針に従って取引を終了させるなどして自律的なリスク管理を行っていたことなど判示の事情の下においては,オプションの売り取引は損失が無限大又はそれに近いものとなる可能性がある極めてリスクの高い取引類型であることを考慮しても,甲の担当者による上記勧誘行為は,適合性の原則から著しく逸脱するものであったとはいえず,甲の不法行為責任を認めることはできない。 (2につき補足意見がある。)
1 証券取引における適合性原則違反と不法行為の成否 2 証券会社の担当者による株価指数オプションの売り取引の勧誘が適合性原則から著しく逸脱するものであったとはいえないとして不法行為の成立が否定された事例
民法709条,証券取引法2条22項,証券取引法43条1号,証券取引法(平成10年法律第107号による改正前のもの)54条1項,証券会社の健全性の準則等に関する省令(昭和40年大蔵省令第60号)8条5号
判旨
証券会社の担当者が、顧客の意向や実情に反して明らかに過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘するなど、適合性の原則から著しく逸脱した勧誘を行い顧客に取引をさせた場合には、不法行為法上も違法となる。ただし、日経平均株価オプション等の上場商品については、具体的な商品特性や情報環境、顧客の投資経験・知識・意向・財産状態等を総合的に考慮して、著しい逸脱の有無を判断すべきである。
問題の所在(論点)
証券会社がリスクの高いオプションの売り取引を勧誘する際、どのような場合に「適合性の原則」に違反し、不法行為法上の違法性を帯びるか。また、豊富な投資経験を持つ法人顧客に対して、無限の損失リスクを伴うオプションの売り取引を勧誘したことが「著しい逸脱」に該当するか。
規範
証券会社は、顧客の知識、経験、財産の状況に照らして不適当な勧誘を行ってはならないという「適合性の原則」を負う(金商法40条1号参照)。不法行為法上、証券会社の担当者が、顧客の意向と実情に反して明らかに過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘するなど、適合性の原則から著しく逸脱した勧誘をして取引を行わせたときは、当該行為は公序良俗ないし信義則に反し、不法行為上の違法性を有する。その判断に際しては、取引類型の一般的抽象的リスクのみならず、具体的な商品特性(基礎商品、上場の有無等)と、顧客の属性(投資経験、知識、投資意向、財産状態)との相関関係を総合的に考慮すべきである。
重要事実
水産卸売業者である被上告人(X)は、公的融資の運用のため、上告人(証券会社Y)と約10年間にわたり累計1800億円に達する多額の証券取引を行っていた。Xの代表者及び専務は、株式の現物・信用・先物・ワラント取引等の広範な投資経験と知識を有していた。Xは、Yからオプション取引のリスク(売り取引の損失は無限大等)について説明書を用いた説明を受け、理解した旨の確認書を差し入れた上で取引を開始。当初は買い取引で利益を得ていたが、その後、自ら「損失が1000万円を超えたらやめる」との管理方針を立てつつ、売り取引を含む運用を継続。最終的に4回目の取引期間中に多額の損失(約2億円)を出したことから、Yに対し適合性原則違反等を理由に損害賠償を求めた。
あてはめ
日経平均株価オプション取引は、上場商品として制度的保障と情報環境が整備されており、説明書の交付義務等により自己責任の条件を付与して一般投資家にも開放されている。本件Xは、20億円以上の運用資金を有し、組織的な管理態勢を備え、5年以上にわたり数百億円規模の多様な証券取引を経験して知識を蓄積していた。また、Xは自ら損失限度額を設定して取引を終了させるなど自律的なリスク管理を行っており、損失拡大の原因もX側の決算対策という個別事情に起因していた。これらを総合すれば、Xはオプションの売り取引を自己責任で行う適性を欠いていたとはいえず、市場から排除されるべき者ではない。したがって、Yの勧誘が適合性の原則から著しく逸脱したものとはいえない。
結論
本件勧誘行為は適合性原則から著しく逸脱したとは認められず、不法行為上の違法性を欠くため、上告人(証券会社)の不法行為責任は否定される。
実務上の射程
適合性原則違反が私法上の違法性を帯びるためには「著しい逸脱」が必要であるという高いハードルを課している。特に上場デリバティブ取引において、顧客に相応の投資経験や知識がある場合、自己責任原則が強く妥当することを強調する。答案上は、まず形式的な義務違反を検討した上で、実質的な違法性の認定において顧客の属性と商品特性の相関関係を具体的にあてはめる際のメルクマールとなる。
事件番号: 昭和63(オ)386 / 裁判年月日: 平成4年2月28日 / 結論: 棄却
証券会社の従業員が顧客の信用取引口座を利用して無断売買をし、その結果生じた差損などに相当する金員をその顧客の信用取引口座から引き落とす処理がされたとしても、顧客に右金員相当の損害が生じたものということはできない。