証券会社の従業員が顧客の信用取引口座を利用して無断売買をし、その結果生じた差損などに相当する金員をその顧客の信用取引口座から引き落とす処理がされたとしても、顧客に右金員相当の損害が生じたものということはできない。
証券会社の従業員の無断売買によつて生じた差損などを顧客の信用取引口座から曳き落とす処理がされた場合と顧客の損害発生の有無
民法415条,民法644条,商法552条,証券取引法49条
判旨
証券会社従業員による無断売買の効果は顧客に帰属せず、顧客の有する返還請求権に影響を及ぼさないため、当該無断売買に伴う会計上の処理がなされても、顧客に損害が生じたとはいえない。
問題の所在(論点)
証券会社従業員の無断売買に基づき、顧客の口座から売買差損等が引き落とされる会計処理がなされた場合、顧客に当該金員相当額の「損害」が発生したといえるか。無断売買の法的効力と債権の存否が問題となる。
規範
不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条、715条)における損害の存否は、加害行為がなかったならば存在したであろう状態と、加害行為後の現在の状態との差分によって判断される。契約関係に基づく債権が存続している場合、会計上の処理によって形式的に残高が減少していても、法的な債権額に影響がない以上、当該債権の減少を損害と捉えることはできない。
重要事実
証券会社の従業員が、顧客の注文に基づかずに当該顧客の信用取引口座を利用して有価証券の売買(無断売買)を行った。証券会社側は、この売買の結果生じた手数料、利息、売買差損等に相当する金員を顧客の口座から引き落とす会計上の処理を行った。顧客は、これら引き落とされた金員相当額について損害が生じたと主張して損害賠償を求めた。
あてはめ
本件における従業員の行為は顧客の注文に基づかない無断売買であるため、その法律効果は顧客に帰属しない。したがって、証券会社が行った会計上の引き落とし処理は法的には無効であり、顧客が証券会社に対して有する委託証拠金や売買差益金等の返還請求権という債権は、依然として減縮せずに存続しているといえる。債権が消滅していない以上、顧客の財産状態に実質的な減少は生じておらず、損害の発生は認められない。
結論
無断売買による会計上の処理は顧客の返還請求権に影響を及ぼさないため、顧客に損害が生じたとはいえず、損害賠償請求は認められない。
実務上の射程
証券会社に対する不法行為請求の成否(損害の有無)を判断する際の指標となる。答案上は、まず無断売買の効果が本人に帰属しない(民法99条1項参照)ことを指摘した上で、債権が存続している以上は損害が発生していないという論理構成に用いる。不当利得返還請求や債務履行請求との選択において重要な意義を持つ判例である。
事件番号: 昭和30(オ)626 / 裁判年月日: 昭和32年6月7日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】鉄道係員が貨物の引渡しがないのに虚偽の貨物引換証(空甲片)を発行した場合、これを利用した詐取行為により第三者が損害を被ったときは、係員に過失があれば、当該発行行為と損害との間に相当因果関係が認められる。 第1 事案の概要:鉄道会社の駅貨物係Aは、知人Dから「形式だけでよいから貨物の発送を証明する甲…