特定の商品の先物取引につき,委託玉と自己玉とを通算した売りの取組高と買いの取組高とが均衡するように自己玉を建てることを繰り返す取引手法を用いている商品取引員が,専門的な知識を有しない委託者から当該特定の商品の先物取引を受託しようとする場合,当該商品取引員の従業員は,信義則上,その取引を受託する前に,委託者に対し,その取引については上記取引手法を用いていること及び上記取引手法は商品取引員と委託者との間に利益相反関係が生ずる可能性の高いものであることを十分に説明すべき義務を負う。
特定の商品の先物取引につき,委託玉と自己玉とを通算した売りの取組高と買いの取組高とが均衡するように自己玉を建てることを繰り返す取引手法を用いている商品取引員の従業員が,信義則上,専門的な知識を有しない委託者に対して負う説明義務
民法1条2項,商品取引所法213条,商品取引所法214条9号,商品取引所法217条1項4号,商品取引所法施行規則103条2号,商品取引所法施行規則104条1項8号
判旨
商品取引員が委託玉と自己玉を通算して売買を均衡させる手法を用いる場合、従業員は専門知識のない委託者に対し、当該手法の採用と利益相反関係が生ずる可能性を説明すべき信義則上の義務を負う。この義務に反して説明を怠った場合、当該行為は委託者に対する不法行為を構成し得る。
問題の所在(論点)
商品取引員の従業員が、委託者と商品取引員との間に構造的な利益相反が生じ得る特定の取引手法を採用している事実について、委託者に対して説明すべき信義則上の義務(説明義務)を負うか。
規範
商品取引員が本件取引手法(委託玉と自己玉を通算して売買の取組高が均衡するように自己玉を建てる手法)を用いている場合、委託者全体の総損金が商品取引員の利益となる関係にあり、不適切な情報提供を行う危険が内在する。したがって、専門的知識を有しない委託者から受託しようとする従業員は、信義則上、受託前に「当該手法を用いていること」及び「利益相反関係が生ずる可能性が高いこと」を十分に説明すべき義務を負う。
重要事実
商品先物取引員である被上告会社の従業員Yは、上告人との間で白金の商品先物取引を受託した。被上告会社は、委託玉と自己玉の売買高を均衡させる「本件取引手法」を繰り返していたが、Yは上告人に対しこの事実を説明しなかった。上告人は当該取引により約688万円の損失を被ったため、説明義務違反を理由に不法行為に基づく損害賠償を求めた。
あてはめ
商品先物取引はリスクが高く、委託者の判断は商品取引員が提供する情報の信用性に依存する。本件取引手法は、委託者の損失が取引員の利益に直結するため、投資判断を誤らせる不適切な情報を提供する危険が内在しており、情報一般の信用性に対する評価を低下させ、投資判断に無視できない影響を与える。ゆえに、専門知識のない上告人に対し、利益相反の恐れがある本件取引手法の採用を説明しなかったことは、信義則上の説明義務を尽くしたとはいえない。
結論
被上告人Yは説明義務を負い、その違反の有無を審理せずに請求を棄却した原判決には法令違反がある。原判決を破棄し、差し戻す。
実務上の射程
適合性の原則や説明義務が問題となる金融商品・先物取引の損害賠償事案において、取引の仕組み自体に内在する「利益相反の構造」を重視し、信義則上の説明義務を肯定する際の有力な規範となる。特に取引手法が委託者の不利益に繋がり得る場合に、情報の非対称性を理由として広範な説明義務を認める。答案上は、不法行為(民法709条)の過失(義務違反)の認定において、本判例の利益相反の評価枠組みを引用して論じる。
事件番号: 昭和31(オ)613 / 裁判年月日: 昭和32年12月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】当事者が主張していない法的な構成(問屋類似行為)について、裁判所が釈明権を行使してその主張を促す義務があるとはいえない。当事者が主張する媒介または代理の事実に基づき、契約の成立を認めた原審の判断に違法はない。 第1 事案の概要:上告人は、被上告人の媒介または代理行為によって上告人とDセメント株式会…