債務整理に係る法律事務を受任した弁護士が,当該債務整理について,特定の債権者に対する残元本債務をそのまま放置して当該債務に係る債権の消滅時効の完成を待つ方針を採る場合において,上記方針は,債務整理の最終的な解決が遅延するという不利益があるほか,上記債権者から提訴される可能性を残し,一旦提訴されると法定利率を超える高い利率による遅延損害金も含めた敗訴判決を受ける公算が高いというリスクを伴うものである上,回収した過払金を用いて上記債権者に対する残債務を弁済する方法によって最終的な解決を図ることも現実的な選択肢として十分に考えられたなど判示の事情の下では,上記弁護士は,委任契約に基づく善管注意義務の一環として,委任者に対し,上記方針に伴う上記の不利益やリスクを説明するとともに,上記選択肢があることも説明すべき義務を負う。 (補足意見がある。)
債務整理に係る法律事務を受任した弁護士が,特定の債権者の債権につき消滅時効の完成を待つ方針を採る場合において,上記方針に伴う不利益等や他の選択肢を説明すべき委任契約上の義務を負うとされた事例
民法415条,民法644条
判旨
弁護士が債務整理において「時効待ち方針」を採る場合、委任契約に基づく善管注意義務として、その不利益やリスク、および他の現実的な解決策を説明する義務を負う。依頼者が方針を黙示に承諾していても、説明義務を尽くしていない限り、弁護士はその責任を免れない。
問題の所在(論点)
債務整理を受任した弁護士が、債権者からの請求を放置して時効完成を待つ方針(時効待ち方針)を採るにあたり、依頼者に対して負う説明義務の内容。また、依頼者が方針を黙示に承諾していた場合に、当該義務違反の責任が否定されるか。
規範
弁護士は、委任契約に基づく善管注意義務の一環として、依頼者の権利義務に重大な影響を及ぼす方針を決定・実行する際、方針の内容、それに伴う具体的な不利益やリスク、および他に考えられる現実的な選択肢を説明すべき義務を負う。特に「時効待ち方針」は、解決の遅延、遅延損害金の増大、敗訴リスクを伴うため、これらを理解させるに足りる説明が必要である。
重要事実
弁護士(被上告人)は、債務整理を受任し過払金を回収したが、一部の債権者に対し、時効完成を待つ方針を一方的に提示した。弁護士は依頼者に対し、回収額や「消滅時効を待つ方針」を説明し、裁判所等から連絡があれば対処する旨を伝えた。しかし、当時回収した過払金で残債務を弁済する余裕があったにもかかわらず、その選択肢や、提訴された場合の遅延損害金のリスク等は具体的に説明しなかった。その後、依頼者は不安を抱き解任。別弁護士を通じて和解したが、説明義務違反に基づく損害賠償を求めた。
あてはめ
本件の時効待ち方針は、債権者が上場企業で厳格な時効管理を行っている可能性が高い以上、合理的根拠を欠き、高額な遅延損害金や敗訴判決を招く重大なリスクを伴うものであった。また、回収済みの過払金により残債務を弁済するという「一般的かつ現実的な選択肢」が十分に存在していた。被上告人の説明は、連絡があった際に対処する等の表面的なものにとどまり、上記のリスクや弁済という選択肢を理解させるに足りるものではない。したがって、依頼者の黙示の承諾があったとしても、適切な判断材料が提供されていない以上、説明義務を尽くしたとはいえない。
結論
被上告人は説明義務を尽くしたとはいえず、善管注意義務違反に基づく債務不履行責任を負う。原審の判断には法令の違反があるため、破棄し差し戻す。
実務上の射程
弁護士の裁量を認めつつも、依頼者の自己決定権に直結する「リスクのある方針」については、他の標準的な選択肢との比較も含めた詳細な説明を求める。特に、不作為による解決(時効待ち)が職業倫理や誠実義務の観点からも原則として不適切であるとの示唆を含んでおり、実務上の注意を喚起する射程を持つ。
事件番号: 平成17(受)2126 / 裁判年月日: 平成19年4月24日 / 結論: その他
弁護士法58条1項に基づく懲戒請求が事実上又は法律上の根拠を欠く場合において,請求者が,そのことを知りながら又は通常人であれば普通の注意を払うことによりそのことを知り得たのに,あえて懲戒を請求するなど,懲戒請求が弁護士懲戒制度の趣旨目的に照らし相当性を欠くと認められるときには,違法な懲戒請求として不法行為を構成する。 …