1 チーム医療として手術が行われる場合,チーム医療の総責任者は,条理上,患者やその家族に対し,手術の必要性,内容,危険性等についての説明が十分に行われるように配慮すべき義務を有する。 2 チーム医療として手術が行われ,チーム医療の総責任者が患者やその家族に対してする手術についての説明を主治医にゆだねた場合において,当該主治医が説明をするのに十分な知識,経験を有し,同総責任者が必要に応じて当該主治医を指導,監督していたときには,当該主治医の上記説明が不十分なものであったとしても,同総責任者は説明義務違反の不法行為責任を負わない。
1 チーム医療として手術が行われる場合にチーム医療の総責任者が患者やその家族に対してする手術についての説明に関して負う義務 2 チーム医療として手術が行われるに際し,患者やその家族に対してする手術についての説明を主治医にゆだねたチーム医療の総責任者が,当該主治医の説明が不十分なものであっても説明義務違反の不法行為責任を負わない場合
(1,2につき)民法709条
判旨
チーム医療の総責任者(執刀医)は、主治医が十分な知識・経験を有し、必要に応じた指導監督を行っていた場合、主治医に説明を委ねることが許され、自ら説明しなかったことのみをもって説明義務違反の責任を負わない。
問題の所在(論点)
チーム医療において、総責任者(執刀医)が主治医に説明を委ね、自ら患者に対し術前の説明を行わなかった場合に、信義則上の説明義務違反に基づく不法行為責任を負うか。
規範
チーム医療において、総責任者は患者側に対し説明が十分に行われるよう配慮すべき義務を負うが、常に自ら説明を行う必要はない。主治医が説明に十分な知識・経験を有する場合、説明を委ね、必要に応じた指導・監督にとどめることが許される。したがって、①主治医の説明が十分であった場合、または、②説明が不十分でも主治医に十分な知識・経験があり、総責任者が適切な指導・監督を行っていた場合には、総責任者は不法行為上の説明義務違反を負わない。これは総責任者が執刀医であっても同様である。
重要事実
大動脈弁置換術を受けた患者Bが術後に死亡。Bの主治医C(大学病院講師)は術前に危険性等を説明したが、チーム医療の総責任者かつ執刀医であった被告(教授)は、自ら直接の説明を行わなかった。原審は、Bの大動脈壁の脆弱性から重度出血の可能性を予見できたとして、被告が自ら脆弱性を説明しなかった点に説明義務違反(不法行為)を認めた。これに対し被告が上告した。
あてはめ
本件において、被告は自ら説明を行っていないが、主治医Cが説明を実施している。被告が責任を負うか否かの判断にあたっては、Cの説明が客観的に十分なものであったかを検討すべきである。仮に不十分であったとしても、Cが説明を行うに足りる専門的知識・経験を有していたか、また、教授である被告がCに対して必要かつ適切な指導・監督を行っていたかという観点からの審理が必要である。原審はこれらの点を確認せず、被告が自ら説明しなかった事実のみで直ちに義務違反を認めており、法令解釈に誤りがある。
結論
被告が自ら説明しなかったことのみを理由に責任を認めた原判決を破棄し、主治医の説明内容や知識・経験、被告の指導監督状況を審理させるため、本件を差し戻す。
実務上の射程
医療過誤訴訟において、執刀医や科長等の上位医師(総責任者)の個人責任を追及する際の反論として重要である。実務上は、主治医による説明の十分性に加え、主治医の属性(キャリア・専門性)やカンファレンス等を通じた指導体制を具体的に主張・立証することになる。説明義務を「組織としての配慮義務」と「直接の履行主体」に切り分けた点に意義がある。
事件番号: 昭和56(オ)26 / 裁判年月日: 昭和56年6月19日 / 結論: 棄却
頭蓋骨陥没骨折の傷害を受けた患者に対して開頭手術を行う医師は、患者又はその法定代理人に対し、右手術の内容及びこれに伴う危険性を説明する義務を負うが、そのほかに、患者の現症状とその原因、手術による改善の程度、手術をしない場合の具体的予後内容、危険性について不確定要素がある場合にはその基礎となる症状把握の程度、その要素が発…