頭蓋骨陥没骨折の傷害を受けた患者に対して開頭手術を行う医師は、患者又はその法定代理人に対し、右手術の内容及びこれに伴う危険性を説明する義務を負うが、そのほかに、患者の現症状とその原因、手術による改善の程度、手術をしない場合の具体的予後内容、危険性について不確定要素がある場合にはその基礎となる症状把握の程度、その要素が発現した場合の対処の準備状況等についてまで説明する義務を負うものではない。
頭蓋骨陥没骨折の傷害を受けた患者の開頭手術を行う医師といわゆる説明義務の範囲
民法709条
判旨
医師が手術を行うにあたっては、手術の内容及びそれに伴う危険性について患者等へ説明する義務を負うが、手術をしない場合の具体的予後や不確定要素の基礎となる詳細な情報までを説明すべき義務はない。
問題の所在(論点)
医師が患者に対して行うべき手術に関する説明義務(診療契約上の付随義務または注意義務)の範囲が、どこまで及ぶか。
規範
医師が手術を実施するに際して負う説明義務の範囲は、特段の事情がない限り、当該手術の内容及びこれに伴う危険性の説明に限られる。患者の現症状の原因、手術による改善の程度、手術をしない場合の具体的予後、不確定要素の基礎となる症状把握の程度や不測の事態への準備状況といった詳細な事項までは、説明義務の対象に含まれない。
重要事実
患者は頭蓋骨陥没骨折の傷害を負い、医師による開頭手術を受けた。その後、手術に関連する説明が不十分であったとして、医師側の不法行為責任(または債務不履行責任)が問われた。患者側は、手術自体の説明のみならず、手術をしない場合の予後や、症状把握の程度、万一の際の準備状況等についても説明すべきであったと主張した。
あてはめ
本件において医師は、開頭手術の内容とそれに伴う危険性については説明を行っていた。これに対し、患者側が求める「改善の程度」「手術をしない場合の予後」「不確定要素の基礎」「準備状況」等は、医学的判断や専門的知見に属する付随的事項にすぎない。したがって、手術の基本的内容とリスクを提示している以上、それ以上の詳細な説明を欠いたとしても、説明義務に違反したとはいえない。
結論
医師には手術内容及び危険性の説明義務はあるが、予後や準備状況等の詳細事項を説明する義務はなく、本件医師に義務違反は認められない。
実務上の射程
医療過誤訴訟における説明義務の範囲を限定的に示した判例である。自己決定権を根拠に説明義務を広げる議論もあるが、答案上は、本判例を「標準的な説明範囲」の基準として引用し、特段の事情(代替療法の存在や患者からの具体的な質問等)がない限り、詳細な予後等の説明までは不要であると論じる際に有用である。
事件番号: 平成18(受)1632 / 裁判年月日: 平成20年4月24日 / 結論: 破棄差戻
1 チーム医療として手術が行われる場合,チーム医療の総責任者は,条理上,患者やその家族に対し,手術の必要性,内容,危険性等についての説明が十分に行われるように配慮すべき義務を有する。 2 チーム医療として手術が行われ,チーム医療の総責任者が患者やその家族に対してする手術についての説明を主治医にゆだねた場合において,当該…