1 精神障害者と同居する配偶者であるからといって,その者が民法714条1項にいう「責任無能力者を監督する法定の義務を負う者」に当たるとすることはできない。 2 法定の監督義務者に該当しない者であっても,責任無能力者との身分関係や日常生活における接触状況に照らし,第三者に対する加害行為の防止に向けてその者が当該責任無能力者の監督を現に行いその態様が単なる事実上の監督を超えているなどその監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情が認められる場合には,法定の監督義務者に準ずべき者として,民法714条1項が類推適用される。 3 認知症により責任を弁識する能力のない者Aが線路に立ち入り列車と衝突して鉄道会社に損害を与えた場合において,Aの妻Y1が,長年Aと同居しており長男Y2らの了解を得てAの介護に当たっていたものの,当時85歳で左右下肢に麻ひ拘縮があり要介護1の認定を受けており,Aの介護につきY2の妻Bの補助を受けていたなど判示の事情の下では,Y1は,民法714条1項所定の法定の監督義務者に準ずべき者に当たらない。 4 認知症により責任を弁識する能力のない者Aが線路に立ち入り列車と衝突して鉄道会社に損害を与えた場合において,Aの長男Y2がAの介護に関する話合いに加わり,Y2の妻BがA宅の近隣に住んでA宅に通いながらAの妻Y1によるAの介護を補助していたものの,Y2自身は,当時20年以上もAと同居しておらず,上記の事故直前の時期においても1箇月に3回程度週末にA宅を訪ねていたにすぎないなど判示の事情の下では,Y2は,民法714条1項所定の法定の監督義務者に準ずべき者に当たらない。 (1,2につき補足意見,4につき意見がある。)
1 精神障害者と同居する配偶者と民法714条1項にいう「責任無能力者を監督する法定の義務を負う者」 2 法定の監督義務者に準ずべき者と民法714条1項の類推適用 3 線路に立ち入り列車と衝突して鉄道会社に損害を与えた認知症の者の妻が法定の監督義務者に準ずべき者に当たらないとされた事例 4 線路に立ち入り列車と衝突して鉄道会社に損害を与えた認知症の者の長男が法定の監督義務者に準ずべき者に当たらないとされた事例
(1~4につき)民法709条,民法713条,民法714条 (1につき)民法752条,精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(平成25年法律第47号による改正前のもの)20条
判旨
精神障害者の同居配偶者であることのみをもって民法714条1項の法定監督義務者には当たらないが、監督を現に行いその態様が事実上を超えている等の特段の事情があれば、同条1項類推適用により「準ずる者」として責任を負い得る。その該否は、本人の心身状況や介護の実態、監督の可能性・容易性等を総合考慮して判断すべきである。
問題の所在(論点)
1. 精神障害者の同居配偶者は民法714条1項の「法定の監督義務者」に該当するか。 2. 該当しない場合、どのような要件で「法定の監督義務者に準ずべき者」として同条の責任を負うか。
規範
1. 民法752条(夫婦間の協力扶助義務)は第三者に対する監督義務を課すものではなく、精神障害者の同居配偶者は直ちに同法714条1項の「法定の監督義務者」には当たらない。 2. もっとも、責任無能力者との身分関係や日常生活の接触状況に照らし、監督を現に行いその態様が単なる事実上の監督を超えているなど、監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情がある場合には、714条1項を類推適用し「法定の監督義務者に準ずべき者」として責任を負わせるのが相当である。 3. その該否は、①本人の心身状況・問題行動の有無、②介護の実態、③親族関係の濃淡・同居の有無・財産管理への関与等の関わりの実情、④監督の可能性・容易性等を総合考慮し、衡平の見地から責任を問うのが相当な客観的状況があるか否かで判断する。
重要事実
認知症(要介護4)のA(91歳)が駅構内に立ち入り列車に衝突死した事故。JRがAの妻Y1(85歳・要介護1)と長男Y2(別居・月3回程度訪問)に対し損害賠償を請求した。Y1は長年同居し、長男の妻Bの補助を得て介護していた。家族はセンサー付チャイムの設置や外出への付添い等の対策を講じていたが、事故時はY1がまどろんだ隙にAが事務所出入口(チャイム電源OFF)から外出した。
あてはめ
1. Y1について:長年同居する妻であるが、自身も85歳で要介護1の認定を受け、歩行に支障があるなどBの補助なしには介護が困難な状況にあった。加害防止のためにAを監督することが現実的に可能な状況にあったとはいえず、監督義務を引き受けた特段の事情は認められない。 2. Y2について:長男として介護方針に関与していたが、20年以上別居しており、たまに訪問するにすぎない。Aを現に監督することが可能な状況になく、監督を引き受けた特段の事情は認められない。
結論
Y1、Y2ともに法定の監督義務者またはこれに準ずべき者には当たらず、損害賠償責任を負わない。
実務上の射程
法定監督義務者の範囲を限定しつつ、類推適用の判断枠組み(総合考慮)を示した重要判例。答案では、まず配偶者や成年の子の「法定」性を否定した上で、示された諸要素(特に監督の現実的可能性)に事実をあてはめて準監督義務者性を否定する流れとなる。介護の社会化という背景を踏まえ、家族に過度な責任を負わせない実務傾向を示すものである。
事件番号: 昭和40(オ)1308 / 裁判年月日: 昭和42年6月13日 / 結論: その他
被害者が、不法行為によつて、全治まで一年以上を要する左大腿部骨折等の重傷をこうむり、手術等の治療をうけたが、現在においても、左下肢が約三〇度外旋位をとつて約三・五センチメートル短縮し、大腿囲、下腿囲とも狭少となり、股、膝関節の運動領域に障害を残し、正座は不能で、歩行も約一キロメートル以上は苦痛のため不可能な状態である等…