被害者が、不法行為によつて、全治まで一年以上を要する左大腿部骨折等の重傷をこうむり、手術等の治療をうけたが、現在においても、左下肢が約三〇度外旋位をとつて約三・五センチメートル短縮し、大腿囲、下腿囲とも狭少となり、股、膝関節の運動領域に障害を残し、正座は不能で、歩行も約一キロメートル以上は苦痛のため不可能な状態である等原審認定の事実関係(原判決およびその引用する第一審判決参照)のもとにおいては、まだ、被害者の配偶者および子は、自己の権利として慰藉料を請求することができるものとはいえない。
不法行為によつて身体を害された者の配偶者および子が自己の権利として慰藉料の請求ができないとされた事例
民法709条,民法710条,民法711条
判旨
不法行為により身体を害された者の近親者は、被害者が生命を絶たれた場合にも比肩すべき、またはそれに著しく劣らない程度の精神的苦痛を受けた場合に限り、民法711条類推適用等により自己の権利として慰謝料を請求できる。
問題の所在(論点)
不法行為によって被害者が「死亡」した場合には民法711条に基づき近親者に慰謝料請求権が認められるが、被害者が「生存」している場合に、近親者が自己の権利として慰謝料を請求できるか。その要件が問題となる。
規範
第三者の不法行為によって身体を害された者の配偶者および子は、そのために被害者が生命を害された場合にも比肩すべき、または右場合に比して著しく劣らない程度の精神上の苦痛を受けたときに限り、自己の権利として慰謝料を請求できる。
重要事実
被害者B4は、加害者の不法行為により左大腿部骨折等の重傷を負い、1年以上の治療を要した。後遺障害として左下肢の短縮、関節の運動障害、正座不能、長距離歩行不可の状態となった。これに対し、配偶者B1および子B2、B3が、自己の精神的苦痛を理由として慰謝料を請求した。
あてはめ
本件において被害者B4は、脚の短縮や運動障害といった重大な後遺障害を負っているものの、生命を害された場合と同視できるほどの精神的苦痛を近親者に生じさせる状態とまでは認められない。判決文によれば、身体障害の内容は重篤ではあるが、近親者が「生命を害された場合に比肩する」ほどの苦痛を受けたとするには足りない。
結論
B1、B2およびB3の慰謝料請求は棄却される。生命侵害がない場合、相当程度の重障害であっても、生命喪失に匹敵する精神的打撃が認められない限り、近親者独自の慰謝料請求権は否定される。
実務上の射程
民法711条の類推適用に関する重要判例である。答案上は、まず711条の文言(死亡)との乖離を指摘し、同条が例示規定であることを理由に類推適用の余地を認めつつ、「生命侵害と同視し得る程度の苦痛」という厳格な要件を提示する。重度後遺障害(植物状態等)の事案でこの規範を用いることになる。
事件番号: 昭和31(オ)215 / 裁判年月日: 昭和33年8月5日 / 結論: 棄却
不法行為により身体を害された者の母は、そのために被害者が生命を害されたときにも比肩すべき精神上の苦痛を受けた場合、自己の権利として慰藉料を請求しうるものと解するのが相当である。