一二歳の娘が不法行為により身体の傷害を受け、右受傷の部位程度、治癒後の創痕などが原判示(原判決理由参照)のごとくであるところから、同女が世間なみの幸福な結婚生活にはいることができるかどうかを危惧するなど人の親として相当の精神的苦痛を味つている場合においては、右父母は、民法第七〇九条第七一〇条に基づいて自己の権利として加害者に対し慰藉料の請求ができる。
不法行為により身体の障害を受けた者の父母が自己の権利として慰藉料請求権を有するとされた事例。
民法709条,民法710条,民法711条
判旨
生命侵害がない場合であっても、被害者と密接な身分関係にある者が被害者の受傷により精神的苦痛を被ったときは、民法709条、710条に基づき、固有の慰謝料を請求できる。
問題の所在(論点)
民法711条は、被害者が「死亡」した場合に限定して近親者の慰謝料請求権を認めているが、被害者が「受傷」にとどまる場合においても、近親者が民法709条、710条を根拠に固有の慰謝料を請求できるか。
規範
不法行為により被害者が受傷した場合において、その親族等の第三者が被った精神的苦痛が、被害者が死亡した場合にも比肩すべき精神上の苦痛であると認められるときは、民法709条、710条に基づき、当該第三者は自己の権利として慰謝料を請求することができる。
重要事実
被害者B3が負傷した事案において、その親である被上告人B1およびB2は、子であるB3の受傷によって多大な精神的苦痛を被った。被上告人らは、加害者に対し、民法709条および710条に基づき、自己の固有の権利として慰謝料の支払いを求めて提訴した。
事件番号: 昭和31(オ)215 / 裁判年月日: 昭和33年8月5日 / 結論: 棄却
不法行為により身体を害された者の母は、そのために被害者が生命を害されたときにも比肩すべき精神上の苦痛を受けた場合、自己の権利として慰藉料を請求しうるものと解するのが相当である。
あてはめ
被上告人B1およびB2は、受傷したB3の親という密接な身分関係にある。B3が受傷したことによって両名が味わった精神的苦痛は、認定された事実関係に照らせば、単なる法的反射利益の侵害にとどまらず、両名自身の法的保護に値する利益(人格権ないし身分権的利益)への侵害と評価できる。したがって、民法709条および710条の要件を満たすものと解される。
結論
被上告人らは、自己の権利として慰謝料請求権を有する。被害者が生存している場合でも、近親者の固有の慰謝料請求は認められる。
実務上の射程
本判決は民法711条の規定が近親者の慰謝料請求を死亡時に限定する趣旨(排他的規定)ではないことを示した。司法試験では、被害者が重度の後遺障害を負ったケースなど、死亡に比肩する精神的苦痛が認められる場合に、711条を類推適用するか、あるいは本判旨のように709条・710条を直接適用するかの論証で用いる。
事件番号: 昭和44(オ)46 / 裁判年月日: 昭和44年4月24日 / 結論: 棄却
第三者の不法行為によつて身体を害された者の両親は、そのために子が生命を害されたにも比肩すべきか、または右場合に比して著しく劣らない程度の精神上の苦痛を受けたときにかぎり、自己の権利として慰籍料を請求することができる。