一 父母が子の戸外行動についてそのつど特別の具体的注意ないし監視をしないからといつて、右の子が小学校二年生の男児であること、平常より同児に対し道路上で遊ぶ際の車両等に対する一般的注意が父母によつて与えられていたことなど判示事情のもとでは、父母に親権者としての監督上の過失があつたものとはいえない。 二 満七年二月の男児が自動車事故によつて重傷を受け、通算約一一月にわたる入院、約一〇回に及ぶ手術等の加療の結果、両足切断は免れたが、現になお判示のような身体障害をのこしている等判示事情のもとで父母が被つた精神的苦痛は、右事故によつて同児の生命が侵害された場合に比し著しく劣るものでなく、父母は、右苦痛による慰藉料を請求することができる。
一 児童が道路上で遊ぶことについて親権者に監督上の過失がないとされた事例 二 子が重傷を受けた場合の父母の精神的苦痛について慰藉料請求が認められた事例
民法820条,民法722条2項,民法711条
判旨
不法行為により被害者が重傷を負った場合、その父母は、被害者の生命が侵害された場合に比肩するような精神的苦痛を受けたといえる特段の事情がある限り、民法711条を類推適用して自己の権利として慰謝料を請求できる。
問題の所在(論点)
不法行為により被害者が死亡に至らない重大な傷害を負った場合に、その父母は民法711条の類推適用により自己の慰謝料を請求できるか。また、親権者に監督上の過失(過失相殺の対象)が認められるか。
規範
民法711条は被害者が死亡した場合を規定するが、被害者がこれに比肩するような重大な傷害を負った場合においても、その父母等の精神的苦痛が生命侵害の場合に比して著しく劣らないと認められるときは、同条の類推適用により、父母等は自己の権利として慰謝料を請求し得る。
重要事実
加害車両の衝突により、当時小学校2年生のB1が両足に重傷を負った。B1は約11ヶ月の入院と約10回の手術を要し、一時は両足切断を宣告されるほど重篤な状態であった。幸い切断は免れたが、両下肢には広範囲の醜状瘢痕と2センチの短縮が残り、歩行や激しい運動に支障を来す後遺障害が生じた。また、瘢痕部からの出血が繰り返され、将来の就職等にも著しい制約が予想される状態であった。父母(B2、B3)は長期間献身的な看護を行い、子の将来を悲観するなどの精神的苦痛を被った。
あてはめ
B1の負傷は両足切断を危惧されるほどの重傷であり、長期間の治療と多数回の手術を経てなお、身体的機能障害や顕著な醜状瘢痕という重大な後遺障害を残した。このような子の状態に対し、長期間献身的な看護を続け、子の将来に絶えざる精神的苦慮を強いられる父母の苦痛は、子が死亡した場合の苦痛と比して著しく劣るものではないと評価できる。なお、近隣に遊び場がなく道路で遊ぶことがやむを得ない事情下で、平素から一般的注意を与えていた小学校2年生の親に対し、具体的行動への不断の監視がなかったことをもって過失があるとはいえない。
結論
本件のような重大な傷害の場合には民法711条が類推適用されるため、被害者の父母は自己の権利として慰謝料を請求できる。また、本件の事実関係下では親に特段の過失は認められない。
実務上の射程
被害者が生存している場合でも、後遺障害の程度が極めて重く、近親者の精神的苦痛が「死亡に比肩する」ほど甚大であれば711条類推適用の余地がある。答案上は、後遺障害の具体的な内容(日常生活の支障や外見的醜状)と、近親者の看護の状況や今後の精神的負担を対比させて「死亡に比肩するか」を具体的に検討すべきである。
事件番号: 昭和44(オ)46 / 裁判年月日: 昭和44年4月24日 / 結論: 棄却
第三者の不法行為によつて身体を害された者の両親は、そのために子が生命を害されたにも比肩すべきか、または右場合に比して著しく劣らない程度の精神上の苦痛を受けたときにかぎり、自己の権利として慰籍料を請求することができる。
事件番号: 昭和31(オ)215 / 裁判年月日: 昭和33年8月5日 / 結論: 棄却
不法行為により身体を害された者の母は、そのために被害者が生命を害されたときにも比肩すべき精神上の苦痛を受けた場合、自己の権利として慰藉料を請求しうるものと解するのが相当である。