一、不法行為により死亡した被害者の夫の妹であつても、この者が、跛行顕著な身体障害者であるため、長年にわたり被害者と同居してその庇護のもとに生活を維持し、将来もその継続を期待しており、被害者の死亡により甚大な精神的苦痛を受けた等判示の事実関係があるときには、民法七一一条の類推適用により加害者に対し慰藉料を請求しうる。 二、不法行為による生命侵害があつた場合、民法七一一条所定以外の者であつても、被害者との間に同条所定の者と実質的に同視しうべき身分関係が存し、被害者の死亡により甚大な精神的苦痛を受けた者は、加害者に対し直接に固有の慰藉料を請求しうる。
一、民法七一一条の類推適用により被害者の夫の妹に慰藉料請求権が認められた事例 二、不法行為による生命侵害があつた場合と民法七一一条所定以外の者の固有の慰藉料請求権
民法711条
判旨
民法711条に掲げられた者以外であっても、被害者との間に同条所定の者と実質的に同視しうべき身分関係が存し、甚大な精神的苦痛を受けた者は、同条を類推適用して固有の慰謝料を請求できる。
問題の所在(論点)
民法711条に列挙されていない親族(本件では義妹)は、同条を類推適用して固有の慰謝料を請求できるか。請求できる場合の要件が問題となる。
規範
民法711条は生命侵害における慰謝料請求権者を限定的に規定したものと解すべきではない。文言上の列挙(父母、配偶者、子)に該当しない者であっても、①被害者との間に同条所定の者と実質的に同視しうべき身分関係が存し、②被害者の死亡により甚大な精神的苦痛を受けたといえる場合には、同条の類推適用により加害者に対し直接に固有の慰謝料を請求しうる。
重要事実
被害者Dの夫の実妹であるB1(当時46歳)は、幼児期の病気の後遺症により重度の身体障害(等級2号)を有していた。B1は長年にわたりDと同居し、Dの庇護のもとで生活を維持しており、将来的にもその関係の継続が期待されていた。ところが、Dが事故により死亡したため、B1は甚大な精神的苦痛を受けるに至った。B1が、加害者に対し民法711条類推適用に基づく慰謝料を請求したところ、加害者側が請求権者の範囲を争った。
あてはめ
B1は被害者Dの夫の妹であり、文言上は711条の「父母、配偶者、子」には当たらない。しかし、B1は重度の身体障害ゆえに長年Dと同居し、生活全般においてDの庇護を受けていた。この密接な依存関係と生活実態に鑑みれば、B1とDの間には、同条所定の親族と「実質的に同視しうべき身分関係」が存すると評価できる。また、唯一の頼りであったDを突然失ったことにより、B1が「甚大な精神的苦痛」を受けたことは明白である。したがって、B1は同条の類推適用を受ける要件を満たす。
結論
B1は、民法711条の類推適用により、加害者に対し直接に固有の慰謝料を請求することができる。
実務上の射程
711条は限定列挙ではないことを示す重要な判例。答案では「実質的同視可能性」と「甚大な苦痛」の二要件を定立し、同居の有無、扶養・庇護の関係、精神的・経済的依存度といった事実を具体的に拾ってあてはめる必要がある。なお、本条は生命侵害(死亡)の規定だが、後遺障害事案(709条、710条に基づく請求)の慰謝料請求権者の範囲を論ずる際の類推の基礎としても参照される。
事件番号: 昭和40(オ)1004 / 裁判年月日: 昭和42年1月31日 / 結論: 棄却
一 父母が子の戸外行動についてそのつど特別の具体的注意ないし監視をしないからといつて、右の子が小学校二年生の男児であること、平常より同児に対し道路上で遊ぶ際の車両等に対する一般的注意が父母によつて与えられていたことなど判示事情のもとでは、父母に親権者としての監督上の過失があつたものとはいえない。 二 満七年二月の男児が…
事件番号: 昭和31(オ)215 / 裁判年月日: 昭和33年8月5日 / 結論: 棄却
不法行為により身体を害された者の母は、そのために被害者が生命を害されたときにも比肩すべき精神上の苦痛を受けた場合、自己の権利として慰藉料を請求しうるものと解するのが相当である。