既に成年に達しながら両親と同居している精神障害者が心神喪失の状況のもとで他人に傷害を負わせたが、当該傷害事件の発生するまでその行動にさし迫つた危険があつたわけではなく、右両親は老齢でその一方は一級の身体障害者であり、いずれも精神衛生法上の保護義務者にされることを避けて同法二〇条二項四号の家庭裁判所の選任を免れていたこともなかつた等判示の事実関係のもとでは、右両親に対し民法七一四条の法定の監督義務者又はこれに準ずべき者としての責任を問うことはできない。
他人に傷害を負わせた精神障害者の両親について民法七一四条の責任が否定された事例
民法713条,民法714条,精神衛生法20条1項,精神衛生法20条2項,精神衛生法22条,精神衛生法23条,精神衛生法24条
判旨
精神障害者が加害行為を行った際、同居の父母であっても、精神衛生法上の保護義務者への選任を免れた等の特段の事情がない限り、民法714条の監督義務者等として賠償責任を負わない。
問題の所在(論点)
責任能力のない精神障害者が他人に損害を加えた場合、同居している高齢の両親が、民法714条1項の「法定の監督義務者」またはこれに準ずる者として、損害賠償責任を負うか。
規範
民法714条1項にいう「法定の監督義務者」またはこれに準ずべき者として責任を負うためには、法律上の監督権限があるか、あるいは監督義務者に代わって現実に監督を引き受けている必要がある。成人の精神障害者と同居している親族という事実のみでは直ちに当該責任を負わず、精神衛生法(当時)上の保護義務者となることを不当に避けたなどの事情がない限り、監督義務を認めることはできない。
重要事実
37歳の長男Dは、精神障害により心神喪失の状態で上告人を襲い、重傷を負わせた。Dは両親である被上告人らと同居していたが、かつて他人に暴行を加えたことはなく、差し迫った危険も認識されていなかった。父(76歳)は視覚障害、母(65歳)は日雇労働者であり、成人したDを監督した事実はなかった。被上告人らはDの奇行に悩み、事前に警察や保健所に相談していたが、精神衛生法上の保護義務者への選任を不当に免れた事実はなかった。
あてはめ
Dは成人しており、かつて両親がDを監督していた事実はない。被上告人らは高齢や身体障害を抱えつつ、Dの粗暴な言動に対し公的機関へ相談するなど相応の対応をしており、精神衛生法上の保護義務者への選任を不当に免れたともいえない。また、Dには本件まで暴力の前科がなく、客観的に加害行為の蓋然性が高かったとは認められない。したがって、単なる同居の父母という立場を超えて、直ちに法的・現実的な監督義務があったとは評価できない。
結論
被上告人らは民法714条所定の監督義務者またはこれに準ずべき者に該当せず、賠償責任を負わない。
実務上の射程
成人の精神障害者の家族による監督責任を否定した事例である。本判決は、後に「JR東海事件(最判平28.3.1)」へと繋がる重要な先例であり、監督義務を引き受けたと評価できる「客観的状況」や「監督可能性」の有無を厳格に判断する際の基準となる。答案上は、同居の有無だけでなく、本人の自立度、介護の実態、監督の期待可能性を具体的に検討する際の根拠として用いる。
事件番号: 平成24(受)1948 / 裁判年月日: 平成27年4月9日 / 結論: 破棄自判
責任を弁識する能力のない未成年者の蹴ったサッカーボールが校庭から道路に転がり出て,これを避けようとした自動二輪車の運転者が転倒して負傷し,その後死亡した場合において,次の(1)~(3)など判示の事情の下では,当該未成年者の親権者は,民法714条1項の監督義務者としての義務を怠らなかったというべきである。 (1) 上記未…