責任を弁識する能力のない未成年者の蹴ったサッカーボールが校庭から道路に転がり出て,これを避けようとした自動二輪車の運転者が転倒して負傷し,その後死亡した場合において,次の(1)~(3)など判示の事情の下では,当該未成年者の親権者は,民法714条1項の監督義務者としての義務を怠らなかったというべきである。 (1) 上記未成年者は,放課後,児童らのために開放されていた小学校の校庭において,使用可能な状態で設置されていたサッカーゴールに向けてフリーキックの練習をしていたのであり,殊更に道路に向けてボールを蹴ったなどの事情もうかがわれない。 (2) 上記サッカーゴールに向けてボールを蹴ったとしても,ボールが道路上に出ることが常態であったものとはみられない。 (3) 上記未成年者の親権者である父母は,危険な行為に及ばないよう日頃から通常のしつけをしており,上記未成年者の本件における行為について具体的に予見可能であったなどの特別の事情があったこともうかがわれない。
責任を弁識する能力のない未成年者が,サッカーボールを蹴って他人に損害を加えた場合において,その親権者が民法714条1項の監督義務者としての義務を怠らなかったとされた事例
民法709条,民法712条,民法714条
判旨
責任無能力者の親権者は、通常人身に危険が及ぶとはみられない行為によりたまたま損害が生じた場合、具体的予見可能性等の特別の事情がない限り、民法714条1項の監督義務を怠らなかったと解される。校庭での通常のサッカー練習中にボールが道路へ出た本件では、親権者の監督義務違反を否定した。
問題の所在(論点)
責任能力のない未成年者の親権者が、民法714条1項の監督義務者としての義務を怠らなかったといえるか。特に、校庭での遊戯中に生じた不慮の事故について、親権者の指導監督義務の範囲が問題となる。
規範
責任能力のない未成年者の親権者は、直接的な監視下にない子の行動について、人身に危険が及ばないよう注意して行動するよう日頃から指導監督する義務を負う。もっとも、親権者の指導監督はある程度一般的なものとならざるを得ない。したがって、通常は人身に危険が及ぶものとはみられない行為によってたまたま人身に損害を生じさせた場合は、当該行為について具体的に予見可能であるなどの「特別の事情」がない限り、監督義務を尽くしていなかったとすべきではない。
重要事実
11歳の児童Cが、放課後に開放されていた小学校の校庭で、設置されたゴールに向けてフリーキックの練習をしていた。Cが蹴ったボールが、高さ1.3mの門扉を越えて校庭外の道路へ転がり出た。そこを自動二輪車で進行していたB(85歳)が、ボールを避けようとして転倒し、後に死亡した。Cには責任能力がなく、親権者である両親(被告ら)は日頃から通常のしつけを施していた。
あてはめ
Cの行為は、児童に開放された校庭で、設置されたゴールに向けて行われた通常の練習であり、校庭の日常的な使用方法として「通常の行為」といえる。また、ゴール後方にはネットやフェンス、側溝が存在し、ボールが道路に出ることが常態であったとはいえない。Cが殊更に道路に向けて蹴った事情もなく、本件練習は「通常は人身に危険が及ぶような行為」には当たらない。加えて、両親には通常のしつけを超えて本件事故を具体的に予見可能であったなどの特別の事情も認められない。したがって、両親は監督義務を怠っていなかったと評価される。
結論
被告らは民法714条1項の監督義務者としての義務を怠らなかったというべきであり、損害賠償責任を負わない。原告らの請求は棄却される。
実務上の射程
民法714条1項の義務者の責任を限定した重要判例である。監督義務の内容を「日頃の一般的な指導」に留まるものと捉え、危険性が高くない日常的な行為(スポーツや遊戯等)については、具体的な予見可能性という「特別の事情」がない限り免責されることを示した。答案上は、子の行為の態様(通常性・危険性)と、場所的設備等の客観的状況を分析し、規範の「特別の事情」の有無を検討する際に用いる。
事件番号: 昭和53(オ)854 / 裁判年月日: 昭和53年12月22日 / 結論: 棄却
本件事故現場における本件用水溝は、その護岸壁の高さや水深(原判示参照)からいつて通常の幼児や成人にとつてその生命、身体に危険を生じさせるものではなく、このような営造物については、本件被害者のような一年七月程度の乳幼児が保護者の監護を離れたために生ずべき事故をも防止しうるような措置が講じられていなくても、その管理に瑕疵が…