責任を弁識する能力のない未成年者の行為により火災が発生した場合において、失火の責任に関する法律にいう重大な過失の有無は、未成年者の監督義務者の監督について考慮され、右監督義務者は、その監督について重大な過失がなかったときは、右火災により生じた損害を賠償する責任を免れると解すべきである。
責任を弁識する能力のない未成年者の行為により火災が発生した場合における監督義務者の損害賠償責任と失火の責任に関する法律
民法714条,失火の責任に関する法律
判旨
責任能力のない未成年者の失火による損害につき、監督義務者が民法714条1項に基づき賠償責任を負うのは、監督義務者自身に監督上の「重大な過失」があった場合に限られる。
問題の所在(論点)
責任能力のない未成年者の行為により火災が発生した場合において、監督義務者が民法714条1項の責任を負うための要件として、失火責任法をどのように適用すべきか。特に、重過失の対象は「未成年者の行為」か「監督義務者の監督態様」か。
規範
責任能力のない未成年者の失火により損害が発生した場合、監督義務者は民法714条1項に基づき賠償義務を負うが、失火責任法の趣旨を併せ考慮し、監督義務者に監督上の「重大な過失」がなかったときは、その責任を免れると解すべきである。この際、未成年者自身の行為に「重過失相当」があるか否かを基準とするのではなく、あくまで監督義務者自身の監督態様における重過失の有無を基準とする。
重要事実
10歳と9歳の未成年者が、無人の倉庫内に侵入し、内部にあったマッチと新聞紙を用いて火遊びをしていたところ、火が段ボール箱に燃え移り建物が焼失した。未成年者らには責任能力がなかったため、建物の保険代位を取得した被上告人が、未成年者の両親(上告人ら)に対し、民法714条1項に基づき損害賠償を請求した。
あてはめ
原審は、未成年者の行為態様を客観的にみて「重過失に相当する」と認められる場合に監督義務者が責任を負うとした。しかし、民法714条1項の趣旨は責任能力のない子の行為につき監督義務者の過失を問う点にある。また、失火責任法は失火者の責任を重過失に限定して保護する趣旨である。両者を併せれば、免責要件である「監督を怠らなかったとき」を「監督について重大な過失がなかったとき」と読み替えて適用すべきであり、未成年者自身の行為に重過失相当があるかを考慮するのは相当ではない。本件では上告人らの監督態様に重過失があったか否かが審理されるべきである。
結論
監督義務者に監督上の重過失がない限り、損害賠償責任を負わない。原審は上告人らの監督上の重過失の有無を判断していないため、判断を尽くさせるべく破棄差戻しとする。
実務上の射程
責任能力のない子の失火事案において、民法714条1項と失火責任法の交錯を解決するリーディングケースである。答案上は、失火責任法の適用(民法709条の特則)を確認した上で、714条の「過失(免責要件)」を「重過失」へと加重して適用する構成をとる。評価の対象は子ではなく「親(監督義務者)」の監督であることを明示する。
事件番号: 昭和35(オ)1343 / 裁判年月日: 昭和36年10月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法714条に基づく監督義務者の損害賠償責任においては、責任無能力者本人の故意又は過失の有無を問わず、またその注意義務の存否を問題とする余地はない。 第1 事案の概要:責任無能力者であるDが行った行為により、被上告人が損害を被った。上告人ら(Dの監督義務者)は、Dに注意義務があることを前提として、…