1 信用保証協会と金融機関との間で保証契約が締結され融資が実行された後に主債務者が反社会的勢力であることが判明した場合において,上記保証契約の当事者がそれぞれの業務に照らし,上記の場合が生じ得ることを想定でき,その場合に信用保証協会が保証債務を履行しない旨をあらかじめ定めるなどの対応を採ることも可能であったにもかかわらず,上記当事者間の信用保証に関する基本契約及び上記保証契約等にその場合の取扱いについての定めが置かれていないなど判示の事情の下では,主債務者が反社会的勢力でないことという信用保証協会の動機は,明示又は黙示に表示されていたとしても,当事者の意思解釈上,上記保証契約の内容となっていたとは認められず,信用保証協会の上記保証契約の意思表示に要素の錯誤はない。 2 金融機関が,主債務者が反社会的勢力であるか否かについて相当な調査をすべきであるという信用保証協会との間の信用保証に関する基本契約上の付随義務に違反して,その結果,反社会的勢力を主債務者とする融資について保証契約が締結された場合には,上記基本契約に定められた保証債務の免責条項にいう金融機関が「保証契約に違反したとき」に当たる。
1 信用保証協会と金融機関との間で保証契約が締結されて融資が実行された後に主債務者が反社会的勢力であることが判明した場合において,信用保証協会の保証契約の意思表示に要素の錯誤がないとされた事例 2 金融機関による融資の主債務者が反社会的勢力であったときにおける信用保証協会と金融機関との間の信用保証に関する基本契約に定められた保証債務の免責条項にいう「保証契約に違反したとき」に当たる場合
(1,2につき)民法446条 (1につき)民法95条 (2につき)民法91条,信用保証協会法1条
判旨
主債務者が反社会的勢力でないことは、保証契約の「要素」の錯誤には当たらないが、金融機関と信用保証協会の間には、主債務者が反社会的勢力か否かを相互に調査すべき信義則上の付随義務が認められる。金融機関がこの調査義務に違反した場合は、基本契約上の免責条項にいう「保証契約に違反したとき」に該当し、信用保証協会は保証債務を免れる。
問題の所在(論点)
1. 主債務者が反社会的勢力であったことが、保証契約の「要素の錯誤」に該当し、契約を無効とするか。 2. 銀行と信用保証協会の間に、主債務者の反社会的勢力該当性に関する相互の調査義務が認められるか、またその義務違反は免責条項の適用事由となるか。
規範
1. 錯誤無効(民法95条)について、主債務者が反社会的勢力でないという動機は、仮に表示されていても、事後的に効力を否定することまでを双方が前提としていない限り、当事者の意思解釈上、法律行為の内容(要素)とはならない。 2. 信用保証協会と金融機関の関係において、両者は反社会的勢力との関係を遮断すべき社会的責任を負う公共的性格を有し、かつ属性調査の方法に限界がある。そのため、基本契約上の付随義務として、保証契約締結・融資実行に先立ち、当時の一般的な調査方法等に照らして相当と認められる調査を行う義務を相互に負う。 3. 金融機関が上記調査義務に違反した場合、免責条項(「保証契約に違反したとき」)に該当し、保証人の調査状況等も勘案した範囲で保証債務は免責される。
事件番号: 平成26(受)266 / 裁判年月日: 平成28年1月12日 / 結論: 破棄差戻
信用保証協会と金融機関との間で保証契約が締結され融資が実行された後に主債務者が反社会的勢力であることが判明した場合において,信用保証協会の保証契約の意思表示に要素の錯誤がないとされた事例
重要事実
銀行(被上告人)が反社会的勢力(a社)に融資を行い、信用保証協会(上告人)がその債務を保証した。後にa社が反社会的勢力と判明し期限の利益を喪失したため、銀行が協会に保証債務の履行を求めた。協会側は、(1)主債務者が反社会的勢力でないことは契約の要素であり錯誤無効である、(2)銀行が属性調査を怠ったのは基本契約上の保証契約違反であり、免責条項が適用されると主張した。
あてはめ
1. 保証契約において主債務者が誰であるかは要素だが、反社会的勢力でないことは主債務者の属性に過ぎない。事後的判明時の特約がない以上、錯誤無効を前提とする合意があったとは認められない。 2. 信用保証制度の公共性と「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」等の社会的要請に鑑みれば、金融機関は相当な属性調査を行う付随義務を負う。本件各貸付けにおいて銀行がこの義務を怠り、その結果保証契約が締結されたのであれば、免責条項にいう「保証契約に違反したとき」に該当し得る。免責の範囲は、協会の調査状況等も含め個別判断を要する。
結論
錯誤無効の主張は認められないが、銀行側の調査義務違反の有無を審理すべきである。義務違反が認められれば、協会は免責条項に基づき保証債務の履行を免れる余地がある(原判決破棄・差し戻し)。
実務上の射程
反社条項のない古い基本契約下での紛争に対する判断枠組みを示す。動機の錯誤の限定的解釈(意思解釈による絞り込み)を維持しつつ、信義則上の「付随義務」と「免責条項」を連動させることで実質的な妥当性を図っており、実務上、金融機関の事前審査義務の重要性を強調する射程を持つ。
事件番号: 平成26(受)2365 / 裁判年月日: 平成28年1月12日 / 結論: 破棄差戻
信用保証協会と金融機関との間で保証契約が締結され融資が実行された後に主債務者が反社会的勢力であることが判明した場合において,信用保証協会の保証契約の意思表示に要素の錯誤がないとされた事例