本訴において訴訟物となっている債権の全部又は一部が時効により消滅したと判断されることを条件として,反訴において,当該債権のうち時効により消滅した部分を自働債権として相殺の抗弁を主張することは許される。
本訴請求債権が時効消滅したと判断されることを条件とする,反訴における当該債権を自働債権とする相殺の抗弁の許否
民法505条,民法508条,民訴法114条2項,民訴法142条,民訴法146条
判旨
本訴で訴訟物となっている債権が時効消滅したと判断されることを条件として、反訴において当該債権を自働債権とする予備的相殺の抗弁を主張することは、民訴法142条の趣旨に反せず許される。
問題の所在(論点)
本訴の訴訟物である債権が時効消滅したことを条件として、同一訴訟手続内の反訴において当該債権を自働債権とする相殺の抗弁を主張することは、民訴法142条(重複起訴の禁止)の趣旨に反し許されないか。
規範
係属中の別訴で訴訟物となっている債権を自働債権として相殺の抗弁を主張することは、重複起訴を禁止した民訴法142条の趣旨に反し許されない。もっとも、本訴債権が時効消滅したと判断されることを条件(予備的)に、反訴において当該債権を自働債権として相殺の抗弁を主張することは、本訴の判断と矛盾抵触せず、審理も重複しないため、同条の趣旨に反せず許される。これは、時効消滅した債権による相殺を認める民法508条の公平の趣旨にも合致する。
重要事実
金銭消費貸借取引の借主(上告人)が、第1取引の過払金返還を求めて本訴を提起した。これに対し、貸主(被上告人)は過払金の消滅時効を援用し、併せて第2取引の貸金返還を求めて反訴を提起した。借主は、本訴で過払金債権が時効消滅と判断される場合に備え、反訴において当該過払金債権を自働債権、貸主の反訴貸金債権を受働債権とする予備的相殺の抗弁を主張した。原審は過払金債権の時効消滅を認めつつ、相殺の抗弁を判断せずに反訴を認容した。
あてはめ
本件相殺の抗弁は、本訴債権が時効消滅したと判断されることを条件とする予備的なものである。時効消滅が認められる場合、その判断を前提として同時に審判される反訴で相殺の抗弁を判断しても、本訴における債権存否の判断と矛盾抵触するおそれはない。また、時効消滅した債権であっても、消滅以前に相殺適状にあれば相殺を認める民法508条の期待を保護すべきであるから、本訴と反訴という同一手続内での主張であれば、審理の重複も回避される。したがって、民訴法142条の趣旨には抵触しないといえる。
結論
本訴債権の時効消滅を条件とした反訴での相殺の抗弁は許される。原審がこれに判断を示さなかったことは、判決に影響を及ぼす理由不備(民訴法312条2項6号)があるため、反訴部分は破棄差戻しを免れない。
実務上の射程
別訴での相殺は原則禁止(重複起訴類推)だが、本訴・反訴の関係にある場合は「審理の重複・矛盾」が回避しやすいため、本件のような予備的主張は許容される。答案上は、142条の趣旨(審理の重複、判決の矛盾、被告の応訴の煩わしさ)に照らして、条件付主張であればこれらの弊害が生じないことを論証する際に用いる。
事件番号: 平成19(受)1128 / 裁判年月日: 平成21年9月11日 / 結論: 破棄差戻
貸金業者が,借主に対し,元利金の支払を怠ったときは当然に期限の利益を喪失する旨の特約の下に3回にわたり金銭の貸付けを行い,各貸付けにつき借主が期限の利益を喪失した後に,一部弁済を受領する都度,弁済金を遅延損害金のみ又は遅延損害金と元金の一部に充当した旨記載した領収書兼利用明細書を交付していた場合において,次の(1)〜(…
事件番号: 平成19(受)996 / 裁判年月日: 平成21年4月14日 / 結論: 破棄差戻
貸金業者が,貸付けに係る債務につき,借主が期限の利益を喪失した後に,借主に対して残元利金の一括支払を請求せず,借主から長期間多数回にわたって分割弁済を受けていた場合において,貸金業者が,債務の弁済を受けるたびに受領した金員を利息ではなく損害金へ充当した旨記載した領収書兼利用明細書を交付していたから,期限の利益の喪失を宥…
事件番号: 平成30(受)2064 / 裁判年月日: 令和2年9月11日 / 結論: 破棄自判
請負契約に基づく請負代金債権と同契約の目的物の瑕疵修補に代わる損害賠償債権の一方を本訴請求債権とし,他方を反訴請求債権とする本訴及び反訴が係属中に,本訴原告が,反訴において,上記本訴請求債権を自働債権とし,上記反訴請求債権を受働債権とする相殺の抗弁を主張することは許される。
事件番号: 平成23(受)2094 / 裁判年月日: 平成25年2月28日 / 結論: その他
1 既に弁済期にある自働債権と弁済期の定めのある受働債権とが相殺適状にあるというためには,受働債権につき,期限の利益を放棄することができるというだけではなく,期限の利益の放棄又は喪失等により,その弁済期が現実に到来していることを要する。 2 時効によって消滅した債権を自働債権とする相殺をするためには,消滅時効が援用され…