貸金業者が,借主に対し,元利金の支払を怠ったときは当然に期限の利益を喪失する旨の特約の下に3回にわたり金銭の貸付けを行い,各貸付けにつき借主が期限の利益を喪失した後に,一部弁済を受領する都度,弁済金を遅延損害金のみ又は遅延損害金と元金の一部に充当した旨記載した領収書兼利用明細書を交付していた場合において,次の(1)〜(3)の各事実のみから,貸金業者において,上記各貸付けにつき,上記特約に基づき借主が期限の利益を喪失したと主張することが信義則に反し許されないとした原審の判断には,違法がある。 (1) 貸金業者は,借主が期限の利益を喪失した後も元利金の一括弁済を求めず,借主からの一部弁済を受領し続けた。 (2) 上記各貸付けにおける約定の利息の利率と遅延損害金の利率とが同一ないし近似していた。 (3) 貸金業者は,借主が1回目及び2回目の各貸付けについて期限の利益を喪失した後に3回目の貸付けを行った。
貸金業者において,特約に基づき借主が期限の利益を喪失した旨主張することが,信義則に反し許されないとした原審の判断に違法があるとされた事例
民法1条2項,民法136条
判旨
貸金業者が期限の利益喪失後に一括請求せず一部弁済を受領し続け、かつ新規貸付けを行ったとしても、直ちに期限の利益喪失の主張が信義則に反するとはいえない。客観的な弁済態様から借主が期限の利益を喪失していないと誤信する事情がない限り、特約に基づく主張は正当な権利行使として認められる。
問題の所在(論点)
借主が期限の利益を喪失した後に、貸主が分割弁済を受領し続けたり新規貸付けを行ったりした場合に、貸主がさかのぼって期限の利益喪失の効果を主張することが、信義則に反し許されないか。
規範
貸主が期限の利益喪失後に一括弁済を求めるか一部弁済を受領し続けるかは原則として貸主の自由である。したがって、①分割弁済の受領継続、②利息と遅延損害金の利率が近似していること、③喪失後の新規貸付けといった事情のみから、期限の利益喪失の主張を信義則(民法1条2項)に反するものとして否定することはできない。
事件番号: 平成18(受)1187 / 裁判年月日: 平成19年2月13日 / 結論: その他
1 貸主と借主との間で継続的に貸付けが繰り返されることを予定した基本契約が締結されていない場合において,第1の貸付けに係る債務の各弁済金のうち利息制限法1条1項所定の利息の制限額を超えて利息として支払われた部分を元本に充当すると過払金が発生し,その後,第2の貸付けに係る債務が発生したときには,特段の事情のない限り,第1…
重要事実
貸金業者である上告人は、借主(被上告人)に対し、元利金の支払を怠ったときは当然に期限の利益を喪失する旨の特約(本件特約)付で貸付けを行った。借主は支払期日に弁済をせず期限の利益を喪失したが、その後も不規則な一部弁済を継続し、上告人はこれを受領するとともに、喪失後も新規の貸付けを行っていた。上告人は領収書に「遅延損害金に充当」と明記していたが、原審はこれらを利息制限法の潜脱を目的とした信義則違反の主張であると判断した。
あてはめ
まず、貸主が一部弁済を受領し続けることは自由な決定の範囲内であり、それだけで喪失の効果を主張しないと期待させる行為とはいえない。次に、領収書に遅延損害金への充当を明記していたことは、むしろ期限の利益喪失の効果を主張する態度の現れである。さらに、本件では借主が当初の支払期日を大幅に遅延して弁済しており、期限の利益を喪失していないと誤信するような客観的態様も認められない。したがって、利息制限法を潜脱する目的があるとは即断できず、従前の態度に矛盾する行動ともいえない。
結論
上告人が期限の利益喪失を主張することは信義則に反しない。原判決中、上告人敗訴部分を破棄し、差し戻す。
実務上の射程
貸金業者による遅延損害金利率(制限利率の1.46倍以内)の適用を維持するための判断枠組み。貸主が事務的に分割受領を続けているだけでは「期限の利益喪失の宥恕(放棄)」とはみなされにくいことを示しており、信義則による権利行使の制限を厳格に解する実務指針となる。
事件番号: 平成21(受)138 / 裁判年月日: 平成21年9月11日 / 結論: 棄却
貸金業者が,借主に対し,元利金の支払を怠ったときは当然に期限の利益を喪失する旨の特約の下に金銭の貸付けを行い,借主が期限の利益を喪失した後に,一部弁済を受領する都度,弁済金を遅延損害金と残元本の一部に充当した旨記載した領収書兼利用明細書を送付していた場合であっても,次の(1)〜(4)など判示の事情の下においては,貸金業…
事件番号: 平成19(受)996 / 裁判年月日: 平成21年4月14日 / 結論: 破棄差戻
貸金業者が,貸付けに係る債務につき,借主が期限の利益を喪失した後に,借主に対して残元利金の一括支払を請求せず,借主から長期間多数回にわたって分割弁済を受けていた場合において,貸金業者が,債務の弁済を受けるたびに受領した金員を利息ではなく損害金へ充当した旨記載した領収書兼利用明細書を交付していたから,期限の利益の喪失を宥…
事件番号: 昭和60(オ)356 / 裁判年月日: 昭和61年11月20日 / 結論: 棄却
クラブのホステスが顧客の当該クラブに対する飲食代金債務についてした保証契約は、ホステスにおいて自己独自の客としての当該顧客との関係の維持継続を図ることによりクラブから支給される報酬以外の特別の利益を得ることを目的として任意に締結したと認められるなど原判示のような事情がある場合には、公序良俗に反するものとはいえない。
事件番号: 平成20(受)1729 / 裁判年月日: 平成21年7月14日 / 結論: その他
期限の利益喪失特約の下での利息制限法所定の制限を超える利息の支払の任意性を初めて否定した最高裁平成16年(受)第1518号同18年1月13日第二小法廷判決・民集60巻1号1頁の言渡し日以前にされた制限超過部分の支払について,貸金業者が同特約の下でこれを受領したことのみを理由として当該貸金業者を民法704条の「悪意の受益…