貸金業者が,借主に対し,元利金の支払を怠ったときは当然に期限の利益を喪失する旨の特約の下に金銭の貸付けを行い,借主が期限の利益を喪失した後に,一部弁済を受領する都度,弁済金を遅延損害金と残元本の一部に充当した旨記載した領収書兼利用明細書を送付していた場合であっても,次の(1)〜(4)など判示の事情の下においては,貸金業者が,上記特約に基づき借主が期限の利益を喪失したと主張することは,信義則に反し許されない。 (1) 上記貸付けに係る契約には,遅延損害金の利率を年36.5%としつつ,期限の利益喪失後も当初の約定の支払期日までに支払われた遅延損害金については,その利率を利息の利率と同じ年29.8%とする旨の特約が付されていた。 (2) 貸金業者の担当者は,借主が期限の利益を喪失した約定の支払期日の前に,約定に従えば支払うべき元利金の合計額を下回る金員を支払えば足りる旨述べていた上,貸金業者は,同支払期日の翌日に借主が支払った弁済金につき,これを利息と元本に充当した旨記載した領収書兼利用明細書を送付した。 (3) その後も,貸金業者の担当者は,借主が同担当者に対して支払が約定の支払期日の翌日になる旨告げた際,1日分の金利を余計に支払うことを求め,支払期日の翌日に支払う場合の支払金額として年29.8%の割合で計算した金利と毎月返済すべきこととされていた元本との合計額を告げた。 (4) 上記(1)〜(3)の貸金業者の対応などにより,借主は,期限の利益を喪失していないと誤信し,貸金業者も,その誤信を知りながらこれを解くことなく,長期間,借主が経過利息と誤信して支払った金員等を受領し続けた。
貸金業者において,特約に基づき借主が期限の利益を喪失した旨主張することが,信義則に反し許されないとされた事例
民法1条2項,民法136条
判旨
貸金業者が、期限の利益喪失を招くような対応を長期間継続し、借主が期限の利益を喪失していないと誤信していることを知りながら放置した場合、後に期限の利益喪失を主張して遅延損害金利率での計算を求めることは、信義則に反し許されない。
問題の所在(論点)
不当利得返還請求に伴う利息制限法に基づく引き直し計算において、貸金業者が過去の支払遅滞による期限の利益喪失を主張することが、信義則に反し許されないか。
規範
貸金業者が、借主に期限の利益を喪失していないとの誤信を生じさせ、借主がその誤信に基づいて支払を継続していることを知りながら、注意喚起せず放置した場合、後に貸金業者が期限の利益喪失を主張することは、借主の信頼を裏切るものとして信義則(民法1条2項)に反し、許されない。
事件番号: 平成21(受)319 / 裁判年月日: 平成21年12月4日 / 結論: その他
更生会社であった貸金業者において,届出期間内に届出がされなかった更生債権である過払金返還請求権につきその責めを免れる旨主張することは,管財人又は更生会社が,顧客に対し,過払金返還請求権が発生している可能性があることやその届出をしないと更正会社がその責めを免れることにつき注意を促さず,保全管理人が上記貸金業者の発行したカ…
重要事実
貸金業者である上告人は、借主である被上告人と金銭消費貸借契約を締結した。被上告人は第5回目の支払を1日延滞したが、事前に担当者から「15万円程支払えばよい」と言われ、支払後の明細にも遅延損害金への充当記載はなかった。第9回目の延滞時も、担当者は1日分の金利(年29.8%)の支払を求めたのみであった。その後約6年間、上告人は一括弁済を求めず、被上告人は期限の利益を喪失していないと誤信して支払を続けた。上告人はこの誤信を知りながら放置し、過払金返還請求を受けた段階で、第5回目以降は全て期限の利益を喪失しており遅延損害金の利率(年36.5%)が適用されるべきだと主張した。
あてはめ
上告人の担当者は、支払遅滞に対し特定の金額を支払えば足りる旨を告げ、領収書にも遅延損害金の記載をせず、被上告人に期限の利益を喪失していないとの誤信を生じさせた。被上告人が期限の利益を喪失していないと信じたことには無理からぬ事情がある。また、上告人は被上告人の誤信を知りながら約6年間も放置して利息制限法を超える金員を受領し続けており、過払金返還を求められた段階で手のひらを返して遅延損害金利率の適用を主張することは、借主の正当な信頼を裏切る評価(矛盾挙動)といえる。
結論
上告人の期限の利益喪失の主張は信義則に反し、認められない。したがって、利息制限法所定の制限利率(利息)を超えて支払われた分は元本に充当され、過払金が発生する。
実務上の射程
貸金業者が実務上、遅延を黙認して通常通り利息として受領し続けていた場合に、計算上だけ有利な遅延損害金を主張することを封じる射程を持つ。答案では、貸金業者の態様(担当者の言動、明細の記載)と期間、借主の認識を具体的に検討する際の規範として用いる。
事件番号: 平成19(受)1128 / 裁判年月日: 平成21年9月11日 / 結論: 破棄差戻
貸金業者が,借主に対し,元利金の支払を怠ったときは当然に期限の利益を喪失する旨の特約の下に3回にわたり金銭の貸付けを行い,各貸付けにつき借主が期限の利益を喪失した後に,一部弁済を受領する都度,弁済金を遅延損害金のみ又は遅延損害金と元金の一部に充当した旨記載した領収書兼利用明細書を交付していた場合において,次の(1)〜(…
事件番号: 平成18(受)276 / 裁判年月日: 平成19年7月13日 / 結論: 破棄差戻
利息制限法1条1項所定の制限を超える利息を受領した貸金業者が,その預金口座への払込みを受けた際に貸金業の規制等に関する法律18条1項に規定する書面を債務者に交付していなかったために同法43条1項の適用を受けられない場合において,当該貸金業者が,事前に債務者に約定の各回の返済期日及び返済金額等を記載した償還表を交付してい…
事件番号: 平成21(受)47 / 裁判年月日: 平成21年9月4日 / 結論: その他
貸金業者が借主に対し貸金の支払を請求し借主から弁済を受ける行為が不法行為を構成するのは,貸金業者が当該貸金債権が事実的,法律的根拠を欠くものであることを知りながら,又は通常の貸金業者であれば容易にそのことを知り得たのに,あえてその請求をしたなど,その行為の態様が社会通念に照らして著しく相当性を欠く場合に限られ,この理は…
事件番号: 平成16(受)424 / 裁判年月日: 平成18年1月24日 / 結論: 破棄差戻
1 利息制限法所定の制限を超える約定利息と共に元本を分割返済する約定の金銭消費貸借に,債務者が元本及び約定利息の支払を遅滞したときには当然に期限の利益を喪失する旨の約定が付されている場合,同約定中,債務者が約定利息のうち制限超過部分の支払を怠った場合に期限の利益を喪失するとする部分は,同法1条1項の趣旨に反して無効であ…