貸金業者が借主に対し貸金の支払を請求し借主から弁済を受ける行為が不法行為を構成するのは,貸金業者が当該貸金債権が事実的,法律的根拠を欠くものであることを知りながら,又は通常の貸金業者であれば容易にそのことを知り得たのに,あえてその請求をしたなど,その行為の態様が社会通念に照らして著しく相当性を欠く場合に限られ,この理は,当該貸金業者が過払金の受領につき民法704条所定の悪意の受益者であると推定されるときであっても異ならない。
貸金業者が借主に貸金の支払を請求し借主から弁済を受ける行為が不法行為を構成する場合
民法704条,民法709条
判旨
貸金業者が利息制限法の超過利息を受領した場合において、民法703条の不当利得における「悪意の受益者」(同法704条)に該当するか否かは、単に制限超過の事実を知っていることのみならず、当該利息の受領に法律上の原因がないことを知っていたか、あるいは法律上の原因がないと疑うに足りる相当の理由があったか否かにより判断すべきである。
問題の所在(論点)
利息制限法所定の制限を超える利息の支払を受けた貸金業者が、民法704条にいう「悪意の受益者」に該当するか否かの判断基準、およびその判断にあたってのみなし弁済制度(旧貸金業法43条1項)への依拠の評価が問題となる。
規範
民法704条にいう「悪意の受益者」とは、不当利得の成立要件である法律上の原因の欠如を認識している受益者を指す。貸金業者が制限超過利息を受領した場合、特段の事情がない限り、法に定めた書面(旧貸金業法17条1項、18条1項)の交付等、いわゆるみなし弁済(同法43条1項)の要件を満たさない限り法律上の原因がないといえる。したがって、貸金業者がみなし弁済の適用を信ずるに足りる相当の理由がある場合を除き、制限超過を知りつつ受領した業者は悪意の受益者と推定される。
重要事実
事件番号: 平成18(受)276 / 裁判年月日: 平成19年7月13日 / 結論: 破棄差戻
利息制限法1条1項所定の制限を超える利息を受領した貸金業者が,その預金口座への払込みを受けた際に貸金業の規制等に関する法律18条1項に規定する書面を債務者に交付していなかったために同法43条1項の適用を受けられない場合において,当該貸金業者が,事前に債務者に約定の各回の返済期日及び返済金額等を記載した償還表を交付してい…
上告人(貸金業者)は、被上告人に対し、制限超過利息を含む金銭消費貸借契約(本件各取引)を継続的に行っていた。本件における超過利息の支払に関し、上告人はみなし弁済(旧貸金業法43条1項)の適用があるとして悪意を否定したが、実際には法令の定める書面交付義務等を厳格に遵守していた事実は認められない。一方で、本件取引当時の実務慣行や最高裁判例の変遷に照らし、業者がみなし弁済の成立を確信していたと主張する背景事情が存在した。
あてはめ
貸金業者は業として金銭の貸付けを行う者であり、利息制限法および関係法令の規定を熟知しているべき立場にある。本件において上告人は、制限超過の事実を当然に認識していたといえる。また、みなし弁済の適用を受けるためには厳格な書面交付等が要求されるが、上告人はこれらの要件を充足していないことを認識していた、あるいは認識し得た状況にあった。最高裁判例による解釈が確立する以前であっても、法形式上要件を満たさない以上、法律上の原因がないと疑うに足りる相当の理由があったといえるため、悪意の受益者としての責任を免れない。
結論
貸金業者が制限超過利息を受領した場合、みなし弁済が成立すると信ずるに足りる相当の理由がある等の特段の事情がない限り、民法704条の悪意の受益者にあたる。本件上告人は悪意の受益者に該当する。
実務上の射程
本判決(平成19年7月13日)は、過払金返還請求において、年5%の民事法定利息(悪意の受益者の付加利息)を付すべき時期を事実上確定させた。実務上、業者が「悪意」を免れるための「相当の理由」のハードルは極めて高く設定されており、書面不備があるケースではほぼ例外なく悪意の受益者と認定される。
事件番号: 平成18(受)1666 / 裁判年月日: 平成19年7月17日 / 結論: その他
貸金業者が利息制限法1条1項所定の制限を超える利息を受領したが,その受領につき貸金業の規制等に関する法律43条1項の適用が認められないときは,当該貸金業者は,同項の適用があるとの認識を有しており,かつ,そのような認識を有するに至ったことについてやむを得ないといえる特段の事情がある場合でない限り,民法704条の「悪意の受…
事件番号: 平成17(受)1970 / 裁判年月日: 平成19年7月13日 / 結論: その他
1 貸金業者が返済方式を元利均等方式とする貸付けをするに際し,貸金業の規制等に関する法律17条1項に規定する書面に当たるものとして借用証書の写しを借主に交付した場合において,(1)当該借用証書写しの「各回の支払金額」欄に,一定額の元利金の記載と共に「別紙償還表記載のとおりとします。」との記載があり,償還表は借用証書写し…
事件番号: 平成20(受)2114 / 裁判年月日: 平成22年6月4日 / 結論: その他
更生会社であった貸金業者において,届出期間内に届出がされなかった更生債権である過払金返還請求権につきその責めを免れる旨主張することは,(1)上記貸金業者の発行したカードは従前どおり使用することができる旨の社告が新聞に掲載された際に,上記貸金業者において,過払金返還請求権につき債権の届出をしないと更生会社がその責めを免れ…
事件番号: 平成21(受)1192 / 裁判年月日: 平成21年9月4日 / 結論: 棄却
いわゆる過払金充当合意(過払金発生当時他の借入金債務が存在しなければ過払金をその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意)を含む基本契約に基づく金銭消費貸借の借主が利息制限法所定の制限を超える利息の支払を継続したことにより過払金が発生した場合においても,悪意の受益者である貸主は過払金発生の時から民法704条前段所…