1 既に弁済期にある自働債権と弁済期の定めのある受働債権とが相殺適状にあるというためには,受働債権につき,期限の利益を放棄することができるというだけではなく,期限の利益の放棄又は喪失等により,その弁済期が現実に到来していることを要する。 2 時効によって消滅した債権を自働債権とする相殺をするためには,消滅時効が援用された自働債権は,その消滅時効期間が経過する以前に受働債権と相殺適状にあったことを要する。
1 既に弁済期にある自働債権と弁済期の定めのある受働債権とが相殺適状にあるというための要件 2 時効によって消滅した債権を自働債権とする相殺をするために消滅時効が援用された自働債権がその消滅時効期間経過以前に受働債権と相殺適状にあったことの要否
(1,2につき)民法505条1項 (1につき)民法136条 (2につき)民法145条,民法508条
判旨
民法508条に基づき、時効消滅した債権を自働債権として相殺するためには、自働債権の時効期間が経過する以前に、受働債権の弁済期が現実に到来して相殺適状にあることを要する。
問題の所在(論点)
民法508条にいう「相殺をすることができるようになった時(相殺適状)」の意義。特に、受働債権の弁済期が未到来であっても、期限の利益を放棄できる状態にあれば相殺適状にあるといえるか。
規範
民法505条1項の文理に照らせば、相殺適状には自働債権のみならず受働債権も弁済期が現実に到来していることを要する。債務者が期限の利益を放棄できるとしても、それは債務者が享受した期限の利益を遡及的に消滅させるものではなく、当然に相殺適状にあるとは解せない。したがって、民法508条が適用されるためには、自働債権の時効完成前に、受働債権の期限の利益の放棄または喪失等により、その弁済期が現実に到来していることを要する。
重要事実
事件番号: 平成7(オ)2025 / 裁判年月日: 平成9年11月11日 / 結論: 棄却
賭博の勝ち負けによって生じた債権が譲渡された場合においては、右債権の債務者が異議をとどめずに右債権譲渡を承諾したときであっても、債務者に信義則に反する行為があるなどの特段の事情のない限り、債務者は、右債権の譲受人に対して右債権の発生に係る契約の公序良俗違反による無効を主張してその履行を拒むことができる。
被上告人(債務者)は上告人(貸金業者)に対し、平成8年10月時点で過払金返還請求権(本件自働債権)を有していた。一方、上告人は被上告人に対し、分割弁済の約定(本件特約)がある貸付金債権(本件受働債権)を有していた。本件自働債権は平成18年10月に10年の消滅時効が完成したが、その後、被上告人は平成22年7月に本件特約により期限の利益を喪失した。被上告人は同年8月に相殺の意思表示をしたが、上告人は同年9月に本件自働債権の時効を援用した。
あてはめ
本件において、本件受働債権の弁済期が現実に到来したのは、被上告人が支払を遅滞して期限の利益を喪失した平成22年7月1日である。それ以前は、被上告人が期限の利益を放棄することが可能であったとしても、いまだ相殺適状にあったとはいえない。そうすると、本件自働債権が時効消滅した平成18年10月の時点では、本件受働債権の弁済期は到来しておらず、両債権が相殺適状にあったとは認められない。したがって、民法508条の適用要件を満たさないため、本件相殺は効力を有しないと解される。
結論
本件相殺は認められず、根抵当権の被担保債権は消滅していない。よって、被上告人の抹消登記請求は棄却される。
実務上の射程
消滅時効と相殺の場面において、債務者側から「期限の利益を放棄すれば相殺できたはずだ」という期待のみでは民法508条の保護は及ばないことを明確にした。答案作成上は、同条の「相殺適状」の判定において、受働債権の弁済期到来(現実の期限喪失等)が不可欠であるという規範を定立すべきである。
事件番号: 平成19(受)528 / 裁判年月日: 平成20年2月22日 / 結論: 破棄差戻
1 会社の行為は商行為と推定され,これを争う者において当該行為が当該会社の事業のためにするものでないこと,すなわち当該会社の事業と無関係であることの主張立証責任を負う。 2 会社の貸付けが当該会社の代表者の情宜に基づいてされたものとみる余地があっても,それだけでは当該会社の事業と無関係であることの立証がされたということ…
事件番号: 昭和59(オ)594 / 裁判年月日: 昭和63年4月8日 / 結論: その他
物上保証人からされた被担保債権の将来の弁済を原因とする抵当権設定登記又はいわゆる仮登記担保権の仮登記の抹消登記手続を求める請求は、将来物上保証人が被担保債権を弁済することを条件としても、認容することができる。
事件番号: 昭和46(オ)908 / 裁判年月日: 昭和47年12月19日 / 結論: 破棄差戻
根抵当権設定の交渉過程において、当初は債権者が債務者を再興させるために一定の条件が成就したときに行なうべき再建融資のみを被担保債権とすることが予定されていたが、その後右条件成就が未定の間に、債権者が債務者の支払手形を決済させるためのつなぎ融資を行ない、根抵当権設定者において後者を被担保債権に加えることに同意する等判示の…
事件番号: 昭和44(オ)491 / 裁判年月日: 昭和44年11月27日 / 結論: 棄却
債務者兼抵当権設定者が債務の不存在を理由として提起した抵当権設定登記抹消登記手続請求訴訟において、債権者兼抵当権者が請求棄却の判決を求め被担保債権の存在を主張したときは、右主張は、裁判上の請求に準ずるものとして、被担保債権につき消滅時効中断の効力を生ずる。