根抵当権設定の交渉過程において、当初は債権者が債務者を再興させるために一定の条件が成就したときに行なうべき再建融資のみを被担保債権とすることが予定されていたが、その後右条件成就が未定の間に、債権者が債務者の支払手形を決済させるためのつなぎ融資を行ない、根抵当権設定者において後者を被担保債権に加えることに同意する等判示の事情があり、結局右両者を被担保債権とする根抵当権設定契約が成立した場合においては、当該契約中前者を被担保債権とする部分に要素の錯誤が存しても、後者を被担保債権とする部分につきその目的を達成することが可能であるかぎり、当該部分を有効とすることが契約当事者の意思に合致するというべきであり、右契約を全部無効と解すべきではない。
契約の一部が要素の錯誤により無効であつても他の部分の効力には影響がないとされた事例
民法119条
判旨
複数の目的を有する契約の一部に無効原因がある場合でも、その部分を除いて契約目的の達成が可能であれば、当事者の意思と公平の原則に基づき、残存部分を有効とすべきである。
問題の所在(論点)
民法95条(錯誤)等の無効原因が契約の一部に存する場合において、契約全部が無効となるか、あるいは一部のみが無効となり残部が有効(一部無効の法理)となるか。
規範
契約の一部に無効原因が存する場合であっても、契約の当事者は特別の事情がない限り目的の達成を意図するものであるから、その部分を除いてなお当事者の意図した目的の達成が可能であるときは、当該目的の達成が可能な範囲で契約を有効とすることが、契約当事者の意思に合致し、公平の原則にもかなう。
重要事実
上告人、被上告人、石油会社は、経営破綻したEの再建計画を立て、石油会社による2000万円の預金を前提とした上告人による融資(再建融資)と、これに対する被上告人の不動産への根抵当権設定を合意した。一方で、上告人は計画実施前のつなぎ融資も行っていた。被上告人は当初、再建融資の未実現やつなぎ融資を被担保債権に含めることに難色を示したが、最終的に、つなぎ融資と将来の再建融資の両方を担保する目的で根抵当権設定登記を完了し、引き換えにつなぎ融資の担保であった株券の返還を受けた。その後、石油会社が再建計画を承認しないことが判明し、再建融資に関する動機に錯誤があるとして、被上告人が根抵当権設定契約の全部無効を主張した。
事件番号: 平成23(受)2094 / 裁判年月日: 平成25年2月28日 / 結論: その他
1 既に弁済期にある自働債権と弁済期の定めのある受働債権とが相殺適状にあるというためには,受働債権につき,期限の利益を放棄することができるというだけではなく,期限の利益の放棄又は喪失等により,その弁済期が現実に到来していることを要する。 2 時効によって消滅した債権を自働債権とする相殺をするためには,消滅時効が援用され…
あてはめ
本件根抵当権設定契約は、将来の再建融資の担保という目的だけでなく、既に行われたつなぎ融資を担保するという「二個の目的」を有していた。再建融資に関する前提(石油会社による預金)が欠けたことで、一方の目的については錯誤等の無効原因があるといえる。しかし、被上告人はつなぎ融資の担保として差し入れていた株券の返還を受けるのと引き換えに本件根抵当権を設定しており、再建融資が実現しない場合であっても、つなぎ融資の担保という他方の目的は独立して達成可能である。したがって、一部の目的が達成不能であっても、特段の事情がない限り、残存する目的に基づく範囲で契約を有効と認めるのが当事者の意思に合致する。
結論
再建融資に関する錯誤があっても、つなぎ融資の担保という他方の目的が達成可能である限り、契約全部が無効になるわけではない。
実務上の射程
契約の可分性と当事者の仮定的意思を基準に、一部無効・全部無効を判断する際のリーディングケースである。答案上は、錯誤や公序良俗違反が契約の一部にのみ関わる場合に、この法理を援用して契約全体の効力を論じる際に用いる。
事件番号: 昭和39(オ)77 / 裁判年月日: 昭和41年11月18日 / 結論: 棄却
一 登記申請行為自体には、表見代理に関する民法の規定の適用はない。 二 偽造文書によつて登記がされた場合でも、その登記の記載が実体的法律関係に符合し、かつ、登記義務者において登記申請を拒むことができる特段の事情がなく、登記権利者において当該登記申請が適法であると信ずるにつき正当の事由があるときは、登記義務者は右登記の無…
事件番号: 平成18(受)597 / 裁判年月日: 平成19年7月5日 / 結論: 破棄自判
信用保証協会を債権者とし被担保債権の範囲を保証委託取引により生ずる債権として設定された根抵当権の被担保債権に,信用保証協会の根抵当債務者に対する保証債権は含まれない。
事件番号: 昭和49(オ)1019 / 裁判年月日: 昭和50年6月27日 / 結論: 棄却
準禁治産者が取消の対象である金銭消費貸借契約によつて得た利益を賭博に浪費し、右利益が現存しない場合には、その返還義務を負わない。
事件番号: 昭和30(オ)247 / 裁判年月日: 昭和32年11月1日 / 結論: その他
債務者が、他の債権者に十分な弁済をなし得ないためその利益を害することになることを知りながら、ある債権者のために根抵当権を設定する行為は、詐害行為にあたるものと解すべきである。