債務者が、他の債権者に十分な弁済をなし得ないためその利益を害することになることを知りながら、ある債権者のために根抵当権を設定する行為は、詐害行為にあたるものと解すべきである。
一部の債権者に対する根抵当権の設定と詐害行為の成否
民法424条
判旨
債務者が特定の債権者に対して根抵当権を設定する行為は、他の債権者の共同担保を減少させ、残余財産での弁済が困難になる場合には、詐害行為取消権の対象となる。
問題の所在(論点)
特定の債権者に対する「担保提供行為」(根抵当権の設定)が、他の一般債権者との関係で民法424条の詐害行為に該当するか。
規範
債務者が特定の債権者のために根抵当権を設定する行為は、当該債権者に優先弁済権を与え、他の債権者の共同担保を減少させるものである。したがって、それによって他の債権者への十分な弁済が不可能となり、かつ債務者がその害意(詐害の事実を知っていること)を有していた場合には、民法424条の取消権(詐害行為取消権)の対象となる。
重要事実
債務者が、特定の債権者の一人(上告人A2)に対し、その有する不動産等の資産について根抵当権を設定した。これにより、当該債権者は他の一般債権者に優先して弁済を受けられる地位を得た。これに対し、他の債権者が当該設定行為は自己の利益を害する詐害行為であるとして、その取消しを求めて提訴した。
事件番号: 昭和32(オ)349 / 裁判年月日: 昭和35年7月12日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】登記済証および実印を他人に預けた事実のみから、直ちに当該不動産への担保権設定およびその登記申請の代理権を授与したと認めることはできない。代理権の授与を認めるには、預けた際の経緯や趣旨を詳細に検討し、担保に供する意思の有無を具体的に確定すべきである。 第1 事案の概要:上告人(本人)は、知人Dから「…
あてはめ
根抵当権の設定により、設定を受けた債権者は目的物から優先的に弁済を受けることが可能になる。これは反面として、他の債権者から見れば配当の原資となる共同担保が減少することを意味する。債務者の残余財産が他の債権者への弁済に不足する状態において、債務者がその不利益を認識しながらあえて設定を行ったのであれば、他の債権者の利益を害するものと評価される。
結論
債務者が特定の債権者に根抵当権を設定し、その結果、他の債権者への弁済が困難になることを知りながら行った場合は、詐害行為として取り消すことができる。
実務上の射程
特定の債権者への「担保提供」が詐害行為となり得ることを明示した基本判例である。答案上は、(1)被担保債権の発生、(2)債務者の無資力、(3)詐害意思の要件を検討する中で、行為態様が『担保提供』であっても『共同担保の減少』をもたらす以上、詐害性を肯定できる根拠として引用する。ただし、同時交換的に行われる新規融資のための担保提供など、受益に相当性がある場合は別途検討が必要となる点に留意する。
事件番号: 昭和32(オ)1149 / 裁判年月日: 昭和37年2月23日 / 結論: 破棄差戻
被担保債権発生のための更改契約が法定代理人の利益相反行為として無効であるとされた以上、それでもなお、抵当権設定を受諾したとみるべき事実の説示がないかぎり、抵当権設定行為の有効を判断したのは理由不備である。
事件番号: 昭和32(オ)121 / 裁判年月日: 昭和33年6月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】意思表示の動機が、表示等により法律行為の内容とされた場合には、その動機に関する認識の不一致は「法律行為の要素の錯誤」に該当し、当該意思表示は無効となる。 第1 事案の概要:被上告人は、上告会社の社員から融資の約束を受けた。被上告人は、この融資を受けられることを前提(動機)として、本件抵当権設定契約…
事件番号: 昭和36(オ)920 / 裁判年月日: 昭和37年3月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】強制執行の便宜のために消費貸借契約に関する公正証書を作成したとしても、直ちに旧債務を消滅させて新債務を成立させる更改の意思表示があったとは認められない。 第1 事案の概要:上告人は、甲第二号証の消費貸借契約公正証書が作成されたことにより、従来の債務について更改(旧債務の消滅と新債務の成立)があった…
事件番号: 昭和27(オ)1061 / 裁判年月日: 昭和31年11月13日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】破産者が詐害の意思がないと誤信して抵当権を設定した場合でも、法律の誤解に基づく判断のみで直ちに詐害意思を否定することはできないが、受益者が設定時及び登記時に債権者を害することを知らなかったときは、否認権は行使できない。 第1 事案の概要:破産会社Dは、昭和25年7月に支払停止、8月に破産宣告を受け…