判旨
登記済証および実印を他人に預けた事実のみから、直ちに当該不動産への担保権設定およびその登記申請の代理権を授与したと認めることはできない。代理権の授与を認めるには、預けた際の経緯や趣旨を詳細に検討し、担保に供する意思の有無を具体的に確定すべきである。
問題の所在(論点)
登記済証および実印を他人に預けたという事実から、当該不動産に対する抵当権設定等の代理権(民法103条参照、基本代理権の存否)の授与を推認することができるか。
規範
登記済証や実印の交付が、特定の金員の借入れに関連してなされ、かつそれらが抵当権設定登記に必要とされる書類等であったとしても、それだけの事実から当然に、当該不動産への抵当権設定の代理権や、登記申請のために適宜の処置をとる権限(いわゆる登記申請の代理権)を与えたものと解することはできない。代理権授与の有無は、交付に至った経緯や、いかなる趣旨でそれらを預けたのかという具体的な意思表示の内容を審理して判断すべきである。
重要事実
上告人(本人)は、知人Dから「Eが家の権利証と実印を預かりさえすれば5万円貸すと言っている。2、3日だけ貸してくれ」と頼まれ、本件建物の登記済証と実印をDに預けた。しかし、Dは上告人に無断で、上告人の代理人と称して被上告人(会社)との間で本件建物に根抵当権を設定し、上告人の実印等を用いて契約書や白紙委任状を作成して登記を完了させた。原審は、権利証と実印の交付をもって、Dに抵当権設定および登記申請の代理権を授与したと認定し、表見代理の成立を認めて根抵当権を有効とした。
あてはめ
本件において、上告人がDに登記済証と実印を交付したのは、あくまで「預かりさえすれば金が借りられる」というDの依頼を承諾したに過ぎない。この依頼内容からは、上告人がDに対し、積極的に本件建物を担保に供して被上告人のために根抵当権を設定する権限を与えたとは解しがたく、ましてや登記申請の権限を与えたとも断じ得ない。したがって、交付の事実のみをもって代理権授与があったとする原審の判断は、交付の具体的趣旨に関する審理が不十分であり、論理的に飛躍があるといえる。
結論
登記済証および実印の預託事実のみをもって代理権授与を肯定し、表見代理を認めることはできない。原判決を破棄し、代理権授与の趣旨を更に審理させるため、本件を原審に差し戻す。
事件番号: 昭和41(オ)1449 / 裁判年月日: 昭和42年11月30日 / 結論: 破棄差戻
他人所有の土地について、その他人を代理して根抵当権設定および停止条件付代物弁済契約を締結した者が、右契約締結に際し、右土地の権利証と土地所有者の実印を所持しているなど原判決認定のような事情(原判決理由参照)があつたとしても、相手方において、右契約締結直前に自称代理人が所有者のために右土地の所有権取得登記申請手続をしたこ…
実務上の射程
民法110条の表見代理における「基本代理権」の存否が争点となる場面で、本人の意思を慎重に画定すべきことを強調する文脈で用いる。特に、実印等の交付という外形的事実があっても、それが直ちに代理権授与の意思表示を意味するわけではないとする、認定の慎重さを求める射程を持つ。
事件番号: 昭和33(オ)800 / 裁判年月日: 昭和35年2月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】他人に信用を得させる目的で、単に見せるためだけに登記権利書と印鑑を貸与したに過ぎない場合、何ら代理権を授与したものとは認められず、表見代理の成立も否定される。 第1 事案の概要:被上告人は、訴外Dから「E株式会社に対する信用を得るために、単に同会社に見せるだけ」という目的で、本件土地の登記権利書と…
事件番号: 昭和30(オ)247 / 裁判年月日: 昭和32年11月1日 / 結論: その他
債務者が、他の債権者に十分な弁済をなし得ないためその利益を害することになることを知りながら、ある債権者のために根抵当権を設定する行為は、詐害行為にあたるものと解すべきである。
事件番号: 昭和39(オ)77 / 裁判年月日: 昭和41年11月18日 / 結論: 棄却
一 登記申請行為自体には、表見代理に関する民法の規定の適用はない。 二 偽造文書によつて登記がされた場合でも、その登記の記載が実体的法律関係に符合し、かつ、登記義務者において登記申請を拒むことができる特段の事情がなく、登記権利者において当該登記申請が適法であると信ずるにつき正当の事由があるときは、登記義務者は右登記の無…