一 登記申請行為自体には、表見代理に関する民法の規定の適用はない。 二 偽造文書によつて登記がされた場合でも、その登記の記載が実体的法律関係に符合し、かつ、登記義務者において登記申請を拒むことができる特段の事情がなく、登記権利者において当該登記申請が適法であると信ずるにつき正当の事由があるときは、登記義務者は右登記の無効を主張することができない。
一 登記申請行為と表見代理 二 偽造文書による登記の効力
不動産登記法25条,不動産登記法26条,不動産登記法35条,民法110条
判旨
偽造文書による登記申請であっても、登記の記載が実体的法律関係に符合し、かつ登記権利者が登記申請を適法と信ずるにつき正当の事由がある場合には、登記義務者はその無効を主張できない。
問題の所在(論点)
登記申請という公法上の行為において書類の偽造があった場合、私法上の原因行為について表見代理が成立し実体的法律関係に合致しているときであっても、本人は登記の無効を主張できるか。
規範
偽造文書による登記申請は、公法上の行為であるから表見代理規定(民法110条等)の直接適用はない。しかし、(1)登記の記載が実体的法律関係に符合し、かつ、(2)登記義務者においてその登記を拒みうる特段の事情がなく、(3)登記権利者において当該登記申請が適法であると信ずるにつき正当の事由があるときは、信義則上、登記義務者は当該登記の無効を主張することができない。
重要事実
訴外Dは、上告人(所有者)の代理人と称して、被上告人との間で本件不動産に根抵当権を設定する契約を締結した。この契約自体については、民法110条の表見代理が成立し、上告人に対して有効であった。しかし、Dは登記申請にあたり申請書等の関係書類を偽造して登記を経由させた。そのため、上告人は、登記申請行為自体は偽造文書による不適法なものであるとして、登記の無効・抹消を求めて提訴した。
事件番号: 昭和34(オ)415 / 裁判年月日: 昭和37年5月24日 / 結論: 破棄自判
甲の代理人丙が、その権限をこえて乙との間に甲所有の不動産につき乙のために根抵当権設定契約を締結し、かつ甲名義の偽造登記申請委任状によつてその登記をなした場合、右設定契約を締結しおよび登記申請委任状を乙に交付する等登記申請に協力する関係において、乙が丙に右設定契約の締結ならびに登記の申請について甲の代理権ありと信ずべき正…
あてはめ
まず、本件根抵当権設定契約は民法110条により上告人に対し有効であり、登記は実体的法律関係に符合している(要件1)。また、判決文からは「登記を拒みうる特段の事情」は認められない(要件2)。さらに、登記権利者である被上告人の代理人Eは、Dが上告人を代理して登記申請をする権限を有すると信ずるにつき正当の事由があったと認められる(要件3)。したがって、本件登記は実体的権利関係を公示する適法なものとして扱われるべきである。
結論
上告人は、被上告人に対し、本件根抵当権設定登記の無効を主張してその抹消を請求することはできない。
実務上の射程
原因行為(私法上の契約)に表見代理が成立しても、履行行為(公法上の登記申請)が偽造による場合、当然に登記が有効になるわけではない点に注意が必要。答案では、まず原因行為の有効性(110条等)を論じた上で、本判例の規範を用いて登記の無効主張の可否を論じるという二段構えの構成をとる。
事件番号: 昭和39(オ)1107 / 裁判年月日: 昭和42年2月23日 / 結論: 棄却
昭和三九年(オ)第七七号同四一年一一月一八日第二小法廷判決(民集二〇巻九号一八二七頁掲載)と同旨。
事件番号: 昭和40(オ)583 / 裁判年月日: 昭和42年10月27日 / 結論: 棄却
無権代理人の偽造文書による申請に基づいて登記がされた場合においても、本人が右登記の原因たる法律行為を追認したことによりその登記の記載が実体的法律関係に符合するにいたつたときには、本人は、右登記の無効を主張してその抹消登記手続を請求することはできない。
事件番号: 昭和32(オ)240 / 裁判年月日: 昭和33年10月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】無権代理人が本人の代理人として法律効果を本人に帰属させる趣旨で契約を締結した場合、その際に作成された文書が偽造されたものであるか否かにかかわらず、無権代理が成立する。 第1 事案の概要:Dは、Eから代理権を授与されていないにもかかわらず、Eの代理人として、法律効果をEに帰属させる趣旨で、被上告会社…
事件番号: 昭和42(オ)1391 / 裁判年月日: 昭和45年12月24日 / 結論: 破棄差戻
無権代理人甲が乙の代理人と称して丙と締結した抵当権設定契約を乙が追認したのち、甲が乙の代理人と称して丁と抵当権設定契約を締結した場合において、丁が甲に乙を代理して右抵当権設定契約をする権限があると信ずべき正当の事由を有するときは、乙は、民法一一〇条および一一二条の類推適用により、甲のした抵当権設定契約につき責に任じなけ…