無権代理人の偽造文書による申請に基づいて登記がされた場合においても、本人が右登記の原因たる法律行為を追認したことによりその登記の記載が実体的法律関係に符合するにいたつたときには、本人は、右登記の無効を主張してその抹消登記手続を請求することはできない。
偽造文書によつて登記がされた場合において登記原因たる法律行為を追認した本人からするその抹消登記手続の請求の許否
不動産登記法25条,不動産登記法35条,民法116条,民法177条
判旨
無権代理人により本人名義の偽造文書を用いて抵当権設定登記がされた場合であっても、本人がその設定行為を追認したときは、登記が実体上の権利関係と符合するに至るため、本人は当該登記の無効を主張して抹消を求めることはできない。
問題の所在(論点)
無権代理人(冒用者)によって本人名義の偽造文書に基づきなされた抵当権設定登記について、本人が後日その設定行為を追認した場合、本人は当該登記の無効を主張して抹消請求をすることができるか。
規範
本人の名義を冒用した偽造文書によって無権代理人が抵当権設定登記手続を行い、不実の登記がなされた場合であっても、その後に本人が当該抵当権設定行為を追認(民法116条)したときは、その登記の記載は実体上の権利関係と符合するに至る。この場合、登記義務者である本人は、もはや当該登記を拒絶しうる事情がなくなったものとして、抵当権設定登記の無効を主張することはできない。
重要事実
上告人(本人)の親族Eが、上告人の印鑑を無断で使用して被上告人との間で抵当権設定契約を締結し、本人名義の偽造文書を用いて抵当権設定登記を完了させた。その後、上告人らは被上告人らと協議し、一定の支払義務があることを認めた上で、「もし支払がないときは、Eが上告人に無断で行った本件抵当権設定契約を認め、実行されても異議がない」旨を約した。
事件番号: 昭和32(オ)240 / 裁判年月日: 昭和33年10月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】無権代理人が本人の代理人として法律効果を本人に帰属させる趣旨で契約を締結した場合、その際に作成された文書が偽造されたものであるか否かにかかわらず、無権代理が成立する。 第1 事案の概要:Dは、Eから代理権を授与されていないにもかかわらず、Eの代理人として、法律効果をEに帰属させる趣旨で、被上告会社…
あてはめ
本件では、Eによる当初の抵当権設定行為は無権代理行為であったが、上告人はその後の協議において、支払がない場合には当該抵当権の実行を甘受する旨を合意している。これは無権代理行為を追認したものと評価される。追認により、当初は無効であった抵当権設定行為が有効となり、これに基づくなされた登記は、現存する実体的な抵当権という権利関係と一致(実体符合)するに至ったといえる。したがって、上告人はもはや本件登記について抹消を拒む正当な理由を失ったと解される。
結論
本人は、追認によって実体関係と符合するに至った抵当権設定登記の無効を主張し、その抹消を請求することはできない。
実務上の射程
無権代理行為の追認による「登記の実体符合」を認めた判例である。答案上は、登記の抹消請求に対する抗弁として、追認による実体符合の理を構成する際に引用する。冒用による偽造文書を用いたケースでも追認の法理が適用される点に特徴がある。
事件番号: 昭和39(オ)77 / 裁判年月日: 昭和41年11月18日 / 結論: 棄却
一 登記申請行為自体には、表見代理に関する民法の規定の適用はない。 二 偽造文書によつて登記がされた場合でも、その登記の記載が実体的法律関係に符合し、かつ、登記義務者において登記申請を拒むことができる特段の事情がなく、登記権利者において当該登記申請が適法であると信ずるにつき正当の事由があるときは、登記義務者は右登記の無…
事件番号: 昭和43(オ)732 / 裁判年月日: 昭和45年11月19日 / 結論: 破棄差戻
甲が、乙からその所有不動産を買い受けたものであるにもかかわらず、乙に対する貸金を被担保債権とする抵当権と、右貸金を弁済期に弁済しないことを停止条件とする代物弁済契約上の権利とを有するものとして、抵当権設定登記および所有権移転請求権保全の仮登記を経由した場合において、丙が乙から右不動産を買い受けて所有権取得登記を経由した…
事件番号: 昭和42(オ)1391 / 裁判年月日: 昭和45年12月24日 / 結論: 破棄差戻
無権代理人甲が乙の代理人と称して丙と締結した抵当権設定契約を乙が追認したのち、甲が乙の代理人と称して丁と抵当権設定契約を締結した場合において、丁が甲に乙を代理して右抵当権設定契約をする権限があると信ずべき正当の事由を有するときは、乙は、民法一一〇条および一一二条の類推適用により、甲のした抵当権設定契約につき責に任じなけ…
事件番号: 昭和39(オ)1107 / 裁判年月日: 昭和42年2月23日 / 結論: 棄却
昭和三九年(オ)第七七号同四一年一一月一八日第二小法廷判決(民集二〇巻九号一八二七頁掲載)と同旨。