判旨
無権代理人が本人の代理人として法律効果を本人に帰属させる趣旨で契約を締結した場合、その際に作成された文書が偽造されたものであるか否かにかかわらず、無権代理が成立する。
問題の所在(論点)
無権代理行為において、作成された文書が偽造文書である場合、無権代理としての法律関係の成立が妨げられるか。民法113条以下の無権代理の成否と文書偽造の関係が問題となる。
規範
代理権のない者が、他人の代理人と称して(顕名)、法律効果を本人に帰属させる意思をもって契約を締結した場合、民法上の無権代理に関する規定が適用される。その際、代理行為に伴い作成された書面が偽造されたか否かは、無権代理の成否を左右しない。
重要事実
Dは、Eから代理権を授与されていないにもかかわらず、Eの代理人として、法律効果をEに帰属させる趣旨で、被上告会社との間に消費貸借契約および抵当権設定契約を締結した。その契約に際して作成された文書が偽造されたものであったかが争点となった。
あてはめ
Dは権限なくEの代理人と称しており、本件契約の法律効果を本人Eに帰属させる意図をもって行動している。これは民法上の無権代理の要件に該当する。上告人は、文書の偽造が無権代理の成否に影響すると主張するが、無権代理の判断は代理権の有無と顕名の存否により定まるものであり、手段としての文書偽造の事実はその性質を変えるものではない。したがって、偽造の有無にかかわらず無権代理は成立する。
結論
本件におけるDの行為は無権代理に該当する。文書が偽造であるか否かは無権代理の成否に影響を与えないため、上告人の主張は採用できない。
実務上の射程
事件番号: 昭和40(オ)583 / 裁判年月日: 昭和42年10月27日 / 結論: 棄却
無権代理人の偽造文書による申請に基づいて登記がされた場合においても、本人が右登記の原因たる法律行為を追認したことによりその登記の記載が実体的法律関係に符合するにいたつたときには、本人は、右登記の無効を主張してその抹消登記手続を請求することはできない。
文書偽造を伴う冒用的な事案において、表見代理や無権代理の責任追及を認めるための前提となる。文書偽造という不法行為的側面があっても、民法上の代理の法理(無権代理・表見代理)による処理を優先させる実務上の指針となる。
事件番号: 昭和33(オ)87 / 裁判年月日: 昭和33年10月2日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】代理権のない者が勝手に本人の実印を持ち出して委任状を偽造し、消費貸借契約や抵当権設定登記を行っても、本人がそれを適法な代理権に基づくものと認めた事情や、特段の表見代理の成立が認められない限り、その効果は本人に帰属しない。 第1 事案の概要:上告人は、訴外Dとの間でりんごの取引を行っていたが、Dが生…
事件番号: 昭和33(オ)79 / 裁判年月日: 昭和35年8月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】本人が代理人に対して特定の法律行為(本件では不動産の売買契約)を行うための権限を授与していた場合には、当該代理人が本人の名において行った行為の効果は本人に帰属する。 第1 事案の概要:本件において、上告人の代理人であるDは、被上告人である宮城県との間で、上告人が所有する本件建物を売り渡す旨の売買契…
事件番号: 昭和39(オ)77 / 裁判年月日: 昭和41年11月18日 / 結論: 棄却
一 登記申請行為自体には、表見代理に関する民法の規定の適用はない。 二 偽造文書によつて登記がされた場合でも、その登記の記載が実体的法律関係に符合し、かつ、登記義務者において登記申請を拒むことができる特段の事情がなく、登記権利者において当該登記申請が適法であると信ずるにつき正当の事由があるときは、登記義務者は右登記の無…
事件番号: 昭和30(オ)609 / 裁判年月日: 昭和34年12月18日 / 結論: 棄却
民法第一一〇条の適用は、何らかの代理権ある者がその権限を踰越してなした行為について論ぜられるべきもので、全然代理権のない者のなした行為には同条の適用はない。