甲が、乙からその所有不動産を買い受けたものであるにもかかわらず、乙に対する貸金を被担保債権とする抵当権と、右貸金を弁済期に弁済しないことを停止条件とする代物弁済契約上の権利とを有するものとして、抵当権設定登記および所有権移転請求権保全の仮登記を経由した場合において、丙が乙から右不動産を買い受けて所有権取得登記を経由したときは、丙が善意無過失であるかぎり、甲は、丙に対し、自己の経由した登記が実体上の権利関係と相違し、自己が仮登記を経由した所有権者であると主張することはできないと解すべきである。
不動産を買い受けた者が抵当権および停止条件付代物弁済契約上の権利を有するものとして抵当権設定登記および所有権移転請求権保全の仮登記を経由した場合と第三者
民法94条2項,民法369条,民法482条,不動産登記法2条2号
判旨
実体は所有権取得者である者が、通謀又は意思に基づいて虚偽の担保権等の仮登記を了した場合、94条2項の類推適用により、善意無過失の第三者に対して登記が実体と異なることを主張できない。その結果、当該第三者が担保権者として扱い債務を弁済供託したときは、当該仮登記の抹消を請求できる。
問題の所在(論点)
所有権を取得した者が、自己の意思に基づき実体と異なる担保権等の仮登記を了していた場合、民法94条2項の類推適用により、善意無過失の第三者(転得者)に対して実体上の権利が所有権であることを主張できなくなるか。また、その第三者は登記上の債務を弁済することで登記抹消を請求できるか。
規範
不動産について売買予約がないのに通謀して予約を仮装し仮登記を了した場合、外観上の権利者が本登記をしたときは、外観上の義務者は本登記の無効を善意無過失の第三者に対抗できない(94条2項類推適用)。この法理は、所有権取得者が自己の権利保全のため、意思に基づいて担保権設定及び代物弁済予約の仮登記を了した場合にも及ぶ。この場合、善意無過失の第三者との関係では、登記通りの担保権者として扱われ、第三者による適法な弁済供託があれば、登記保持者は担保権者でないとの反証を許されず、登記抹消義務を負う。
事件番号: 昭和46(オ)803 / 裁判年月日: 昭和47年11月28日 / 結論: 破棄差戻
甲が、乙と相通じ、仮装の所有権移転請求権保全の仮登記手続をする意思で、乙の提示した所有権移転登記手続に必要な書類に、これを仮登記手続に必要な書類と誤解して署名押印したところ、乙がほしいままに右書類を用いて所有権移転登記手続をしたときは、甲は、乙の所有権取得の無効をもつて善意・無過失の第三者に対抗することができない。
重要事実
D所有の宅地を、被上告人が昭和31年に買い受け代金を完済した。被上告人は所有権保全の登記を求めたが、Dの依頼した司法書士が作成した抵当権設定及び停止条件付代物弁済契約の書類に、仮登記に必要と信じて押印した。その結果、実体は所有権取得であるのに、登記上は抵当権及び所有権移転請求権保全の仮登記がなされた。その後、Dから当該宅地を転売により取得し登記を経た上告人が、被上告人に対し、登記上の債務額を弁済供託した上で、当該仮登記等の抹消を求めた。
あてはめ
被上告人は、実体は所有者でありながら、司法書士に委任して抵当権設定等の書類に押印しており、本件登記は被上告人の意思に基づくものといえる。そうであれば、虚偽の外観を自ら作出したのと同視でき、94条2項の類推適用により、善意無過失の第三者に対しては、自らが担保権者ではなく所有権者であるとの実体関係を主張できない。上告人が被上告人を登記通りの担保権者と信頼することに善意無過失であれば、被上告人は担保権者として扱われる。したがって、上告人が登記上の被担保債務を適法に弁済供託したのであれば、被上告人の担保権は消滅し、被上告人は上告人に対し登記抹消義務を負う。原審は上告人の善意無過失及び弁済供託の適法性を審理すべきであった。
結論
被上告人は、上告人が善意無過失の第三者にあたる場合には、実体関係が登記と異なることを主張できず、上告人による適法な弁済供託により、抵当権設定登記等の抹消義務を負う。
実務上の射程
権利外観法理(94条2項類推適用)を、仮装の権利者自身が実体上の権利(所有権)を有している特殊な事例に適用した点に特徴がある。答案上は、本人の帰責性(意思に基づく外観作出)と第三者の信頼(善意無過失)を確定させた上で、第三者からの「登記通りの権利関係としての取り扱い」の主張を認める論理として活用する。
事件番号: 昭和40(オ)583 / 裁判年月日: 昭和42年10月27日 / 結論: 棄却
無権代理人の偽造文書による申請に基づいて登記がされた場合においても、本人が右登記の原因たる法律行為を追認したことによりその登記の記載が実体的法律関係に符合するにいたつたときには、本人は、右登記の無効を主張してその抹消登記手続を請求することはできない。
事件番号: 昭和43(オ)892 / 裁判年月日: 昭和44年4月25日 / 結論: 棄却
甲所有の土地建物が乙に贈与されたが、その登記が未了のため、乙が甲を相手に処分禁止の仮処分をしている場合において、不動産周旋業者で甲および乙と永年交際し右建物を賃借している丙が、土地建物の所有権の帰属につき甲と乙が係争中であることを知つているばかりでなく、甲が乙を欺罔して右仮処分の執行を取り消させ、土地建物が乙名義になる…
事件番号: 昭和44(オ)1009 / 裁判年月日: 昭和45年6月2日 / 結論: その他
甲が、融資を受けるため、乙と通謀して、甲所有の不動産について売買がされていないのにかかわらず、売買を仮装して甲から乙に所有権移転登記手続をした場合において、乙がさらに丙に対し右融資のあつせん方を依頼して右不動産の登記手続に必要な登記済証、委任状、印鑑証明書等を預け、丙がこれらの書類により乙から丙への所有権移転登記を経由…
事件番号: 昭和44(オ)1012 / 裁判年月日: 昭和45年2月24日 / 結論: 棄却
甲は、乙が代表者である丙組合と丁会社との紛争解決などのために、戊に合計九〇万円を融資し、その債務担保のため本件土地につき、戊から譲渡担保の設定を受け、一方、乙は、右のような事情から右担保権を取得した甲のために、その権利行使の障害となる根抵当権を自ら放棄したものであるなど判示事実関係のもとにおいては、乙は、その後戊との間…